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第75話

 「はぁー、」  昨日に引き続き、今日も那智の口からは何度目になるかわからない溜息が出る。  最近溜息の数が増えたような気がするが、どうしようもない理由があるのだ。  ふいに見る後ろの席...啓吾の机を一瞥した。  啓吾が昨日那智にしたこと...それを思い出す度に動悸がする。  いまだにあの時の感情、思いを整理することができないでいた。    ―啓吾はなんであんなことをしたんだ...殴って、蹴って、そして最後には....っ、  だけどその後の啓吾の表情が那智の心を惑わせる。  悲しそうな...今にも泣いてしまうのではないかというほどの危さを感じさせる表情。  「なんであんな後悔してるって顔するんだよ...」  人に散々酷いことをしておいて、あんな顔するなんて...そんなことするから...  だから...――いまだに俺は啓吾を本気で嫌いになることができない。  「...ってことだからな、それじゃあ号令かけて」  ハッと気がつけば、朝のSHRでの先生の話は終わっていた。  ...あー、全然聞いてなかった。  後で優也に聞いておこう。そう思いながら号令の係の声で立ち上がり、礼をする。  啓吾は今日学校に来ないつもりなのだろうか。SHRも終わり那智は体を横に向かせて啓吾の机を見つめる。  啓吾への恐怖心はある。だけど今の気持ちをちゃんと整理したい。有耶無耶にしたくない。  だから啓吾と直接話し合う。話し合って、ちゃんと分別をつけたい。  だてに生まれてからずっと一緒にいたわけじゃない。1日の出来事で今までの啓吾との関係があっという間に崩れ去るなんて、できることなら防ぎたい。  俺だって、また啓吾と親友同士としてまた笑いあえることができるのなら...そのためなら昨日のことも、忘れて、なかったことにするよう努力する。  啓吾を失いたくはなかった。啓吾は那智にとって大切な幼なじみでもあり、親友でもあったから。  「、い...お...っ、おいっ!聞こえないのか?」  「う、あ...えっ!?...って、湊!?」  考え事に没頭していると、急に目の前で声を出され慌てて那智は目線を上に向ける。  「どんだけ考えに集中してたんだよ。俺、声掛けたのに無反応でさ、」  「ぁ、えっと、ごめん。ってか、どうしたんだよ急に」  どこか久々に感じる湊の姿に那智は僅かに頬を熱くさせた。  「いや、清水探してたんだけど、見当たらなかったからお前に声掛けたんだ」  「...あー、そうなんだ。啓吾...最近学校休んだりとかしてて...来てもサボったりしてるから中々見つからないと思うよ」  啓吾の話になり少しドキッとする。 まさか今まさに悩んでる人物の名前を出されるとは思いもしなかった。

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