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第74話※
―俺は誰かに似ているのだろうか。その時、そう言えばと、清水君が助けに来てくれたときに言っていた言葉を思い出した。
「もしかして、さっき言ってた“那智”っていう人に似てるの?」
『あれー、那智じゃなかったんだ』清水君はたしかにそう言っていた。
「あぁ、うん、そう。ぁ、でも後ろ姿と笑顔限定でな」
「そうなんだ、」
「ここに来たのだって村澤の後ろ姿を見て那智と見間違えてなんだ」
清水君は笑いながら、自分の頭をクシャクシャと掻きまわした。
「その那智って人とは...仲良しなの?」
「おうよ!バリバリ仲良し!那智とは幼なじみでいつもバカやって騒いだりしてるんだ」
「へぇ、」
―いいなぁ、羨ましい。清水君とそんな風に接することができて...
清水君の楽しそうに話す顔を見て、その那智という人物がすごく羨ましく感じた。
―俺も清水君とそんな風になりたい...もっと清水君に近づきたい...
「あ、もう5時じゃん!ごめん、俺、今日はバスケの春大会でここに来てたんだ。もう帰りのバスの時間だから行くな!...そーだ、携帯持ってる?メアド交換しよう、」
「う、うんっ、」
慌てた手つきで携帯を出した清水君につられて俺も慌てて携帯を出し、お互いのメアドを交換した。
「それじゃあな、村澤!」
「あっ、ちょ、ちょっと待って清水君!」
立ち上がり去ろうとした清水君を俺は急いで呼びとめた。清水君は首を傾けてこちらを見る。
「ん?どした?」
だけど呼びとめたはいいが、あがってしまい言葉が上手く出て来ない。
―清水君は、急いでるんだっ、早く、早く言わなきゃ、
そして俺は自分に鞭をうち、決心した顔で清水君の方を見る。
「な...名前、啓吾って...呼んでもいい、かな」
瞬間、シンとあたりは静まり返り、俺は一瞬にして土下座するほど謝りたい気持でいっぱいになった。
―ああっ、やっぱり、だめだ。急にこんな慣れ慣れしく呼び捨てなんて...嫌に決まってるのに。
「あぁ、もちろん!じゃ、俺も望って呼ぶな!」
「ご、ごめ....、へ?」
それだけ言うと清水君もとい啓吾は満面の笑みを見せてそのまま来た方向へと走り去っていった。
「....っ」
その光景を俺は顔を赤くさせて、食い入るように見ていた。
―近づきたいっていうのは友達としてだけの意味ではないみたいだ。
その時の俺はそんなことを考えていた。
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