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第83話
「うわぁー!俺、ステージ発表楽しみにしてたんだ!!」
「そうなんだ」
啓吾はフッと笑い、ステージの方へと視線を向ける。
学校祭も2日目になり、望と啓吾は体育館で行われているステージ発表を見に来ていた。
「てか、啓吾に誘ってもらえて嬉しい」
「顔赤くして言うな。こっちが照れる」
「どーぞ、照れて下さい」
そう言えば、バカか、と啓吾に軽く頭を小突かれた。
― あぁ、楽しい、嬉しい、幸せだ。隣には大好きな啓吾がいて、2人でふざけたりして笑い合っているんだ。
最近は啓吾の近くにばかりいってしまう。休み時間や昼休みにも。
那智は啓吾の親友だ。けれど、最近俺は自分の方が那智よりも啓吾と仲が良い気がして気分がよかった。
例えるならば、優越感だろうか。
しかし、同時に心配も湧きあがる。
俺が海外に行く前に啓吾と会っていた頃はよく自慢話をするかのように那智の話ばかりをしていた啓吾なのに....
2人の仲は俺の想像とは全く違った。
「なぁ、けい——— 」
『さぁ、次は2-Aの男子たちが今人気のアイドルグループ○○坂のダンスに挑戦だーー!!皆ちゃんと女装して踊りまくる!さぁさ、皆さん盛り上がろうぜー!!』
出てきた言葉は司会の声に消されてしまい、その後は周囲の叫び声で喋れなくなってしまった。
― まぁ、また後でいいか。時間はたくさんあるし、
そう思いステージの方に目を向けた。
「あれ?那智...?」
その瞬間望は驚いた。ステージの一番前の真ん中...センターにいる人物。
それは女装をした那智だった。
すぐに曲が流れ始め、踊りが始まる。
那智が出るなんて知らなかった。那智が笑顔を向ければ、女子の黄色い悲鳴が上がり、まさに本物のアイドルのような扱いを受けていた。
いや、正しくはあの那智だからこそのこの扱いだろう。男女問わずウケの良い性格に顔もカッコイイときた。
そして、今はよくわからないが...啓吾の幼馴染でもあり親友でもある。
望自身が欲しいと渇望する、その立ち位置にいる那智が羨ましく思った。那智と同じになりたい。そうしたらもっと日常生活が楽しくなるのだろか、と。
一生懸命踊っている、妙に女装が似合っている那智を見ながら望はそんなことを思った。
「すごいなぁ、那智は。女装も似合ってるし、」
隣にいる啓吾にそう話しかけたが、当の本人からは何も返答がなかった。
聞こえていなかったのかと思い、もう一度話しかけようと顔を横に向けた瞬間、望は固まった。
― なんで、そんな顔をしてるの...?
啓吾の表情を見て、そう思った。
その時の啓吾の表情は今まで見たことがないくらい優しげな笑みを浮かべていたのだ。
頬が淡い赤で染まっていて、見るからに特別な存在に向ける表情そのもの。
その表情を見て自分に向けられているわけでもないのに、心臓が高鳴った。
そして同時に疑問と悲痛な思いが望の中に生まれた。
啓吾には大切な人がいるの?俺の気持ちは通じない?それとも俺の想いがまだ足りない?もっと想いを伝えればその表情を俺だけのものにしてくれる?
望は啓吾が見ているであろう方向を見た。
そこはステージ上。今まさに那智と他の2-Aの男子数名がダンスをしている。
― もしかして、那智...?
まさか、と思いステージ上の人達を見るが、啓吾と一番関わりがある男子はやはり那智であった。
俺が望む位置に立っている那智。啓吾の大切な人である...那智...?
「那智が一番目立ってるじゃん。さすが啓吾の《《親友》》だな!」
— 認めない。認めたくない。そう思って、その考えを否定するようにして言葉を発する。
「やっぱ、啓吾の《《親友》》は———」
「 黙 れ 」
急に耳にこだました怒りがこもった低い声。
「...え」
隣にいる啓吾の目元には影が落ちている。先程の笑顔は消え、鋭くこちらを睨みつける瞳。望は恐怖で固まってしまった。
「俺は那智の親友なんかじゃねぇ、」
一言一言が威圧的に感じられた。
「そ、そう...なんだ。わかった、よ。なんか、ごめんね」
そんな啓吾から目を離すことができず、震えそうになる手をギュッと握り、この空気に堪えた。
やめてくれよ、どうして急にそんな風になるんだよ。なんで親友って言葉を出しただけで怒るんだ。
それは那智が嫌いなのに俺が啓吾の親友だっていったから?那智と啓吾は親友じゃないの。それとも那智とは親友になりたくない別の理由があるのか...?どんな理由?もしかしてその理由って...
「いや、俺も急にキレてごめんな。」
「だ、大丈夫だよっ、」
先程の表情をフッと消し、啓吾はいつも通りに戻って望の頭をポンポンと叩いた。
その行動に戸惑いと嬉しさが込み上がった。
「俺、啓吾のことやっぱり好きだっ、」
「うわっ、ちょ、お前...場所を考えろ、」
ガバっと啓吾に抱きつき、気持ちを改めて言葉にして伝える。
啓吾が好きだ。だれにも渡したくない。俺だけを見ていてほしい。
― いつかは啓吾も俺のことだけを想ってくれるよね。そう、信じてるよ。
しかし、望の胸の痛みが消えることはなかった。
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