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第84話
「疲れた—っ」
ステージも終わり、踊りまくってクタクタになった那智は控え室のソファにごろりと横になった。
「那智ー、俺たち着替えに教室に戻るけど一緒に行かないか?」
「んー、いや、俺もうちょい休んでから行くわ」
「りょうかい。じゃあ先に行ってるな」
控え室を出ていく友人数名を見送り1人っきりになった空間で屈伸する。
「楽しかったなぁ...」
ステージの一番前にいて踊って、皆が歓声を上げて...
その時のことを思い出せば、フッと自然と笑みがこぼれる。
「何1人で笑ってんだよ。傍から見たらやばいぞ、」
「わぁ゛っ!!ビ、ビックリした...急に現れるなよ、」
笑い声が聞こえ、入口の方に顔を向けるとそこにはクスクスと笑っている湊がいた。
その姿に、那智は慌てて上半身をあげてソファに座った。
「ステージおつかれ」
湊はこちらに近づくと、向かいのソファに座った。その間も那智の心臓はバクバクと煩く鳴り続ける。
「てか、なんでここにいんの。湊もステージに出るのか?」
ここはステージに出る生徒専用の控え室で、関係者以外立ち入り禁止だ。
でも湊がここにいるということはステージにでも出るのだろうか。
― んー...でも、なんかキャラじゃないな。
「まさか、出るわけないだろ。俺は裏方やらされてんの。で、ここにある道具を取りに来た」
「はははっ!だよな、って、じゃあこんな寛いでないで早く戻った方がいいんじゃ、」
「あー...まぁな。んじゃあ、そろそろ行くかな」
湊はそう言い立ち上がると、部屋の隅にあるカラーボックスの前へ歩き、いくつかの小物を手に取り扉の方へと歩いていく。
自分が戻らなくていいのか、と諭したくせにいざ湊があっさり帰っていこうとするのを見て何だか物悲しくなる。
『やっぱり行かないで!』なんてキャラでもないため、そんなこと言えない。
那智はただ湊を目で追っていくのみである。
「あ、児玉さ....お前、女装すげぇ似合ってる。」
「えっ、な...っ、」
湊はニコリと笑い、爽やかにそう告げると扉を開け控室を後にした。
― なんだよなんだよなんだよ今のは!
ようやく治まったはずの心臓はうるさいくらいに再び高鳴り、顔は熱くほてってしまいそうだった。
何度も何度も先程の湊の言葉がエコーのように頭の中を響きわたっている。
― 俺、このまま一生幸せに過ごせそう....
「って、待て待て自分!俺は女装趣味になんぞにはならん!」
湊の一言で危く新たな道を開けそうになった自分に俺は慌ててツッコミを入れた。
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