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第89話

 誰もいない教室で俺は1人床に這いつくばるようにして四肢を投げ出していた。  体中が痛い。立ち上がろうと体を動かすと激痛が走る。  散々殴る蹴るの暴力を振るわれ身体的に傷つき、好意を寄せる湊に罵られ睨まれれば精神的にも傷つく。  ―あぁ、俺は大切な存在に嫌われてばかりだ。それに暴力ばかり。まぁ、啓吾は暴力といっても湊ほど酷いものではなかったが。  「望は...愛されてるな、」  湊にこんなに酷く扱われるなんて考えてもいなかった。  好きだと言われた笑顔も否定され、自身を見てくれていたと思っていた湊の瞳は望と重ねて俺を見ていた。  全部全部全部、望が中心となっている。偽りの優しさだったのだ。  「うぅっ...ふっ、く...」  容赦なく迫る現実の冷たさが心を圧迫して涙は止まることなく流れ続けた。  ― 辛い...辛い。好きなやつにあんな風に扱われるなんて...  「あんな目も向けられるとは思わなかったな、」  汚いものを見るような瞳で俺を写す。そして容赦なく暴力を振るう。  もちろん暴力なんてされたくなかった。だけど、あの瞳も向けられたくなかった。  どうすればよかったんだ。どうすれば湊は俺に笑顔を向け続けてくれたんだ。  湊との距離が縮まって近づいていると思ってたのは自分だけだったのだろうか。  湊と過ごしたひと時は全て幻だったのか、  湊の俺を想う気持ちは最初からなかった。 でもこの気持ちは...湊を想う気持ちは...未だ消えることなく、残っていた。  叶うことはないとわかっていて、辛い現実を見させられているのに...  傷ついてばかりいる。それでも...まだ那智は湊のことが好きだった。  この気持も消えてほしいと思わない。どんなに自分が壊れてもこの気持ちだけは失いたくない。  こんなに人を好きになったことはない...ある意味、初恋なのかもしれなかった。  でもその相手はただ1人を愛し続けていて、盲目的で、他の人間を視界にとらえようとしない。  報われない恋。  男ってことだけで上手くいかない事実なのに、それに加えて厄介な条件もついている。  それでも...考え直してもやはり、出る答えは先程と変わらず同じものだった。

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