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第4話

………な、なんちゅーか、その。 この、この状況。 目が覚めたら、背中に感じる心地よい人肌と体温に一体何が起こってるのか分からなくて。 耳元に聞こえる、他人の穏やかな寝息にゾワゾワして。 なにより………。 腕枕されてるなんて、今までの僕の人生の中で〝初〟のことだから………。 どんな顔をして、この腕枕の主に振り返ったらいいのか、分かんないよ。 ………う、わぁぁ………ハズカシイ………。 勢いでリビングでかなり激しく友哉とイタした後、軽くて小さな僕は駅弁スタイルで、友哉によってベッドまで運ばれて。 さらに、目眩く………。 あんなことや、こんなことを何回も何回も元気だけは無駄にある真面目な青少年が、力尽きるまでに延々に。 友哉に中をかき乱されて、ガチガチに僕の中を突き上げる友哉に感じて、ハマって………。 最高に気持ち良くて。 しかも、もっと気持ち良いトコを擦って欲しくて、恥ずかしげもなく「もっとぉ」とか「いい!」とか言いまくってた気がする……と、いうか………。 ハッキリ記憶に残るくらい、気のせいじゃないんだけど。 あれ、〝よがる〟って言うんだろ??? 僕、涼太がバレー部の部室で見ていたエロ動画のオネエさんみたいだったよなぁ??? ………ひぃぃぃ。 夜の一部始終が走馬灯のように蘇ってきて、かなり恥ずかしすぎるぅ。 僕は自分の気配を消したくなって、思わず両手で顔を覆った。 でも………なんか、幸せだった。 僕は友哉のことが好きで、友哉も僕のことが好きで。 初めて、感じる。 親父と過ごした18年とは違う………。 新しくて、胸がキュンとするような幸せが体中に染み渡るような………。 ドキドキ、疼くような………幸せ。 初めて実感した幸せを手にした今、その幸せが胸に響いて、小っ恥ずかしくなってしまったんだ。 ととと友哉が目を覚ます前に、一刻も早くここから抜け出して、なんとか、こんな僕を友哉に見られないようにしなくちゃ。 友哉の腕枕から少しずつ頭をズラして、ベッドのハジの方へ移動する。 ………早く、早く。 ここから逃げなければ。 「どこ、行くんだ?円佳」 …………バレたーっ!! 「………い、あ、の、のの…喉が渇いちゃって」 「腰立たないんだろ?俺が取ってくる。ポカリでいいか?」 「う、うん。ありがとう」 ………ふ、ふわーっ!! なななんだ、この、彼氏感ーっ!! 全身の毛が泡立つし、ゾクゾクした高揚感で、また僕の顔はゆでダコように真っ赤になってる、絶対茹だってる感じがした。 確かに、腰はユルユルしている上に、鈍痛がして立てない感じはした。 そんな居心地の悪いこの空間で身を縮こませている僕に、友哉は僕の頭に軽く手を置いて僕の顔を覗き込むように見ると、イケメンの顔に笑みを浮かべる。 あ、この顔。 あの頃の………ガキの頃によく見た、大好きな友哉そのものの笑顔だ。 だから、さぁ。 一通りヤリつくした情事のあとでのさ、その笑顔はさぁ………反則なんだってばぁ!! 友哉のキャラ変が確変すぎてついてかない、頭が。 上から俺様だろ? イケメン陰キャだろ? ………今、甘々理想の彼氏風だろ? 友哉が一戦交えた後を感じさせないくらい軽やかな足取りで部屋から出ていくと、僕は体中の体温が一気に上昇するのが分かった。 ………やべぇ。 僕はどうしたらいいんだ? マジで、どんな態度を取ったらいいんだよ??? あぁーっ!! 考えれば考えるほど八方塞がりになって、僕は頭から布団を被って、小学生がするかくれんぼにみたいな、安直な方法で身を隠す手段に出た。 「円佳?何?ミノムシ?」 「………いや、違う」 「ポカリ、持ってきた」 「………ありがと」 「飲める?」 「え?」 「口移し、してやろうか?」 「!?」 「冗談だよ。………なんてな」 「!!」 体に力を入れた瞬間、使いモノにならない体を友哉に抱きあげられた僕は、「ひぃぃ」って情けない声を上げてしまった。 そんな我を忘れてしまうくらい動揺しまくっている僕に、冷たい友哉の唇が僕のに引っ付いたと思ったら、口の中を割って入る舌から勝手知ってるポカリの味がスッと入ってきて、そのままノドを通り抜ける。 …………いや、いやぁ。 動揺している場合じゃないよ? 友哉のことは好きだけど。 なんたって相思相愛なんて、鳥肌が立つくらい嬉しいけど。 数々の友哉のキャラ変とか、どうやって夢のような合コン会場から………怒鳴り散らしながら僕を連れ帰ったのかとか。 あと、僕を守ってたってどういうことなのか。 僕の中で、友哉のコトでふに落ちないことだらけで。 僕はまず、それを解消しないことには、いくら相思相愛だろうと、僕の中で色んなことに消化不良を起こしたままじゃ、納得できないと思ったんだ。 「と、友哉……ちょっと、待って!!分からないことが多すぎて………。ちゃんと、説明してくれない?………友哉の本当が………友哉のことがちゃんと知りたい」 「どこから?知りたい?全部?」 そんな友哉は優しげで、それでいて余裕綽々で、だから僕は、つい言ってしまった。 「………セ、セーブしたところから」 「………セーブしたトコって、どこだよ」 「え?………えと、えと。中学入学したあたりから?」 「………長ぇよ」 「………え?」 ー✳︎ー✳︎ー チャララリーン 『RPG マドカとトモヤのレンアイにっき』 『プレーヤーをせんたくしてください』   マドカ →→トモヤ ピコ。 →→セーブしたところから   はじめから チャリーン 円佳の笑顔が好きだったんだ。 俺がミスしても、監督に怒鳴られても、絶対に笑顔で「オッケー!オッケー!次いこ、次!!」って盛り上げてくれるし。 小さいし、クリっとした大きな目のおかげで何回も女子に間違われてさ。 おかげで男女混成チームと勘違いされていた時期もあり、「混成の方が勝ち上がりやすいから、混成でチーム登録する?」なんて冗談までカマすから、円佳はみんなからも好かれてて。 それでも。 俺の一番は、円佳で。 円佳の一番は、俺で。 それはコートから離れても、変わらない。 だから………。 齢12で恋愛対象が女の子でも男の子でもなく、〝円佳〟だっていうことに、俺は気付いてしまったんだ。 円佳はどうだか分からないけど、母さんと円佳のお父さんが付き合ってるってのも薄々勘づいていたし、母の友人の腐女子やオッサンみたいに豪快なオバさんに囲まれて育つと、所謂、俺は〝耳年増〟みたいな状態になってしまって。 気が付けば、早熟……。 よく言えば妙に大人びた変な子どもに育っていた。 そんな他の人とは違う部分を自覚すると、人間はどうしても隠したいという心理が働くらしい。 鈍感で相変わらず距離が近い円佳と一緒にいるのが恥ずかしくなって、胸のドキドキを悟られたくなくて………。 俺は、バレーボールで声をかけられていた私立中学に進学して、円佳から逃げることを選択する。 遊ぶ友達も少しずつ変えて、だんだん円佳を遠ざけて。 忘れようと。 円佳を忘れてノーマルな人間になろうと決意して、誰にも気付かれないように強がって………。 俺は一人、私立中学に進学したんだ。 ー✳︎ー✳︎ー 「ちょっ!ちょっとタイム!!その頃から好きならそう言えよ!!」 友哉の話に水をさすようで悪かったけど、そうツッこまずにはいられなかったんだ。 「言えるかよ!俺はおまえほどバカで鈍くないんだよ!」 「あー、そーですか。そーですか。続き!!早く話せよ、友哉」 「おまえが話の腰を折って、止めたんだろ!!」 「え?そうだっけ?」 そう怒ったように言う友哉の顔は、なんだか恥ずかしいそうに笑っていて、僕は少し気が楽になったんだ。 ー✳︎ー✳︎ー 「アイツ。ほらY中の11番。アイツいい動きしてんな」 同じ1年で似たような身長の相原が言った視線の先には、地元の公立で相変わらずバレーを続けていた円佳がいた。 小さいのはそのまま、先輩でも臆する事なく声をかけて弱いながらも雰囲気のいいチームを作ってて………。 羨ましいな、なんて思ったら………試合の度に余計円佳から目が離せなくなってしまった。 所詮、強いチームなんて我が強いヤツが多いし。 その中じゃ、平凡より少しだけ上手い程度の俺なんて、本当に才能あるヤツに埋もれて、バレーボールが、微妙につまんなくなってきた頃だったんだ。 さらに同級生のコイツ、相原なんて似たような体型でポジションも全く一緒で、しかもジャニーズみたいな面構えしてるくせに、妙に俺に突っかかってくるし嫌なヤツで。 ………つまんねぇ、本当。 何もかもつまんねぇって考えてた矢先、相原の言った衝撃的な言葉に、俺は冷や水を浴びせられたような感覚に陥った。 「アイツ、めちゃめちゃカワイイじゃん。あんなウブそうなヤツ、俺、すぐ落とせるぜ?」 ………その一言で、俺は元々苦手な相原が一気に嫌いになってしまう。 円佳をこれ以上好きにならないようにあえて距離を置いたのに、俺が側にいてやれない事実が、余計に円佳を危険に晒してしまうとは、全く想像出来なかったから………しくじった、ちゅーか間違った。 この瞬間、人生の選択で初めて間違った選択をしたって悟ったんだ。 ー✳︎ー✳︎ー 「そんな歳で、人生の選択を誤ったって早すぎだろ?!ってか、相原って知り合い?!バレー部!?だって帰宅部って!!」 「高校ン時だろ?中学まではバレー部だったよ。まぁ、素行が悪すぎて3年になる前に、学校まで辞めたけどさ」 「素行?」 「中坊のくせに、タバコとか女とかケンカとか。それでバレー部も学校も辞めさせられたんだよ」 あ、あんなに人当たりもよくってイケメンな相原に、そんな衝撃的過去があったなんて………。 人は見かけによらないんだな。 まんまと騙されたよ、僕。 「まぁ、バレー部練習中に相原が暴れてさ。それが原因で、膝やっちまったんだけどさ」 「………え?」 ー✳︎ー✳︎ー 気が付いたら、俺はコートの上に倒れ込んでいた。 2年になってようやくレギュラーにもなれて、少しだけつまらない生活が、楽しくなってきた頃で。 なのに………無様に倒れて、体育館のライトが眩しくて仕方ないのに、それどころじゃないくらい、左膝が痛かった。 アタックを打つためにジャンプして、滞空時間を感じていた時、左側に何かがぶつかってきて。 バランスを崩した俺は、変な体勢のまま左足から着地して………膝に、鋭い衝撃が走る。 ………やべぇ。 やっちまったかも。 ってか………なんで………? コートサイドがなんだか騒がしくて、その先に視線を動かすと、最近部活にも学校にも顔を出さなくなった相原が、先輩を殴って後輩に蹴りをカマして………。 その光景を目の当たりにして、俺は「……終わった」って思ったんだ。 気持ち悪い話だけど、俺の左膝の半月板がズレて。 先輩や後輩の何人かは腕を骨折して………。 強豪のバレー部は、たったこんだけの事で、たった1人のバカのせいで一瞬にして壊滅してしまったんだ。 ………なら、どうせもう。 バレーボールもやる気ないなら………。 せめて、諦めた気持ちを取り戻すことはできないだろうか。 円佳への………。 円佳が好きな気持ちをもう一度、取り戻すなんて………。 無理、なんだろうか………?って、思ったんだ。 ー✳︎ー✳︎ー 「うっ……うぇ…うぅ」 「………話づれぇんだよ、全く」 「……うぇ?」 「なんでおまえが泣いてんだよ、円佳」 「だっ……だって、だってぇ。そんなこと全く知らずに………僕、気安く『バレーしようぜ』なんて言っちゃって………ごめんなぁ」 友哉がバレーボールが好きなのがすごく伝わって、なのに不可抗力で辞めざるをえなくなって。 そんな友哉の胸に秘めた悲しみとか苦しみが痛いほど分かって………。 気がついたら。 僕はバカみたいに号泣しながら、友哉の話を聞いていた。 「痛かった……だろ?………ごめんな」 手を伸ばさずにはいられなかった、友哉の左膝に。 伸ばして、そっと………。 コワレモノを触るように触れる。 「もう、痛くねぇよ」 友哉は泣いて不細工になっている僕に優しく笑うと、その僕の手に友哉の手を重ねた。 「………続き」 「は?」 「友哉……早く、続き………うぅ……ティッシュ」 「………ワザとだろ?」 「ぅえ?」 「さっきから話をちょいちょい中断せやがって………円佳、ワザとだろ!」 ワザと………じゃないよ。 ………嬉しいんだ、よ。 僕の知らなかった友哉の、空白の期間がどんどん埋まっていく。 友哉のことが、好きになりすぎて。 だからさ、その時に友哉が感じていた喜怒哀楽を、僕も一緒に感じたかったんだ。 「違うよ。ほら、早く………早く今に、追いついてよ」 ー✳︎ー✳︎ー 正直、未練なんてなかった。 バレーボールも、中学時代を過ごした学校にも。 だから、俺は狡猾にもあらゆる手を使って、円佳に再び近づこうと思ったんだ。 まずは、小学校から母さんと純愛を育んでいる円佳のお父さんと仲良くなった。 円佳の受験する高校を聞き出すのはもちろんのこと、俺の側にいなかった間の、俺の知らない円佳の事を聞きまくる。 もう、なりふり構わず、というか。 アブノーマルな自分を悟られたくなかったとはいえ、自分から円佳と距離をとったにも関わらず、円佳との関係を早く取り戻したかったんだ。 「友哉くんは、女の子にめちゃめちゃモテるだろ?いいよなぁ。うちの円佳なんて、よくヤローから告られたり、痴漢にあったりしちゃってるよ?まだ、ガキだからなぁ」 ………な、なんだ?それ。 円佳のお父さんはきっと、俺をアゲて円佳をサゲることによって、俺から笑いをとりたかったに違いない。 しかし、その笑いをとるための円佳のお父さんの発言は、俺にとっちゃ笑いを通り越して。 それ以上の焦りとか裏切られたとか、そんな変な感情が入り混ざって………。 円佳を守らなきゃと思ったと同時に、円佳に対して〝ムカつく〟という感情が芽生えてしまったんだ。 「部活、バレーボールやんね?」 せっかく一緒の高校に通えるようになったというのに、あの頃と変わらない明るい声とかわいい笑顔の円佳が言うもんだから、つい「うっせーな!膝壊してんだよ!!近寄んな、チビッ!!」と悪態をついた。 「知らなかったんだから、しょうがねぇだろ!!エスパーじゃねぇんだよ!!」 そう言い返した円佳の、強がってるのに今にも泣きそうに、大きな瞳を揺らして………。 後悔したと同時に、ヤバいと思った。 この円佳の表情とか、諸々のこととか………。 ………これ、絶対に……ヤロー受けするだろ? しかも当の本人は無自覚、無意識だから。 円佳は本人の知らないところで、〝男子バレーの王子〟なんて呼ばれてさ。 ヤローばかりの非公認・非公式ファンクラブはできるわ、ストーカーみたいな怪しげなヤツは湧くわ。 そんなヤツらを片っ端から統制していったんだよ、俺は……。 頑張ってたんだよ!俺はっ!! 俺の………輝かしいハズだったアオハルな高校生活は………円佳と、前にみたいな。 楽しい高校生活を過ごすハズだったんだよ、俺はっ!! なのに………なのに!! つい意地を張ってしまった挙句、円佳とは険悪な状況になって! 顔すらよく分かんない女の子たちからは、毎日のように屋上か体育館の裏に呼び出されて、「好き」だの言われなんだの言われて無駄な時間を過ごして!! 挙げ句の果てには、円佳にコソコソ近づくヤロー供を片っ端から成敗して!!! 俺の思い描いていた、青春ライフとは全く違う暗黒の3年間を過ごしたんだよ!! ………俺の、俺の……3年間を返せーっ!! ー✳︎ー✳︎ー 「え?!ファン??えぇ?!」 「…………本当。バカかよってくらい無自覚だな」 「えぇ?………じゃ、じゃあ。無理矢理に義兄弟にこだわったのは?!」 「………円佳を………独り占めしたかった」 それは………。 僕にとったら、友哉の経験した青春ライフはかなり充実していると思うんだけど、気のせいか? 女の子にモテモテで、再放送で見た無鉄砲な将軍様みたいに悪役を成敗してさぁ? めちゃめちゃ、カッコいいじゃん。 学校と体育館と家のトライアングルしかなかった僕より、よっぽど起伏があって楽しそうだよ。 「だから………円佳の絵を描いてた」 「………あ」 「近くに、側にいられないから。体育館に入って、スケッチしてた………円佳を」 ………あのスケッチブックの絵。 やっぱり、僕だったんだ。 今なら分かる。 友哉が僕に対する気持ちが絵に現れてるから、あんなにキレイで目を奪われるような、僕の絵を描いて………。 うわぁ………恥ずかしいけど、嬉しい。 「おまえのトスを上げる姿勢とか、チームを盛り上げる笑顔とか、全部絵におさめたかった。俺の、俺だけのものにしたかった。………まぁ、おまえの周りをチョロチョロするヤローを見つけるにも好都合だったけどな」 憑き物が落ちたみたいな。 懐かしい笑顔を僕に見せると、僕の頬をそっと撫でた。 強がって素直になれなくて、つい意地を張っちゃって………。 その結果、こじれちゃったんだな。 上から俺様な友哉でもなく。 イケメン陰キャな友哉でもなく。 甘々理想の彼氏風な友哉でもなく。 今目の前にいるのは、僕が知ってる友哉だ。 強がって素直になれなくて、意地を張っていたのは僕も一緒で。 「どうせ僕は友哉のことなんて分からない」って心のどっかで思っていたから、一度友哉に突っぱねられて卑屈になったのも、結局、僕が自ら招いたことで………。 ちゃんと、自分のコトを伝えていたら。 ちゃんと、相手の話を聞いていたら。 こんなに回り道はしなかったのかもしれない。 …………まぁ、そこがさ。 いい事も悪い事も乗り越えるから、人生のリアルなRPGって面白いんじゃないかな? もし、僕たちがずっと仲が良かったら。 こうして義兄弟になって2人っきりで暮らすこともなく、家族4人で暮らしていたかもしれないし。 こんなに激しい〝ギシアン〟をすることもなかっただろうし、ましてや親父に聞かれるとか………正直、人生終了だろうし。 「………そういえば、なんで今日の合コンの場所わかったの?」 今の今まで柔らかな表情で朗々と語っていた友哉が、一気に強張った表情に変わる。 ………コイツ、なんかしたか? 「………し、白魔術を使って」 「んなわけねぇだろ」 「………〝仲間を探す〟機能を使って……?」 「おーい、ゲームじゃないんだからさぁ………。!!?おまえひょっとして!!」 「正解!!円佳のスマホに勝手にそういうアプリを入れたから!!」 「………すげぇな、おまえ。………そのへんのストーカーよりストーカーみたいだよ」 「俺をアイツらと一緒にすんな!!相原よりまだマシなんだよ!!」 「なんで、そこで相原がでてくるんだよ?」 「アイツは………アイツは、おまえが知らないだけで高校の時から、円佳を付け回してたんだよ!!」 「はぁ?!」 なっ………なに?! 冗談だろ、それ………。 全然、知らないんだけど? だって、だってさ。 運転免許試験場で会ったのが初めてだから、「はじめまして」って、あいさつしてさ。 リア充感満載な………そうだよ!!合コンでも女の子にもモテモテで、一人勝ちみたいな状態だったよ?! 相原が僕狙いなんてありえないよ!! 「つーか、本当に覚えてないのかよ……」 「え?なにを?」 「……おまえ、襲われかけてたんだよ。殴られるとかそんなんじゃねぇぞ?ヤられる方の襲われるだかんな?」 「は?誰に?」 「相原に」 「は?またまたぁ、何言ってんだよ、友哉ぁ」 「冗談じゃねぇよ!!店のトイレで、相原にもう少しで突っ込まれそうになってたんだよ、おまえは!!」 「はぁ?!」 「既のところで俺が助けてやったんだからなっ!!」 ………あ?マジで? あの時……ぼんやりして、よく覚えてないけどさ。 あったかい布団に包まれてたと思っていたのは………実は、相原?! なんかフワフワして気持ちいいと思っていたのは………考えるだけで、おぞましい………シコられてたとか、それに近いようなコトを相原にされていたということなのかも?! ………ひぃぃぃ。 「なんとなく、思い出したか?」 「………いや、よく………分かんない。けど、ありがとう………」 「円佳?」 「助けてくれて、ありがとう。………僕、友哉とじゃなきゃヤダ。友哉以外とはやりたくない。いくら、覚えてないとはいえ。………僕、友哉が好きだし。縛られてヤられたりしたけどさ………。友哉がいいんだよ」 僕の素直な、気持ちを友哉に投げる。 我ながら、キレイでタイミングがドンピシャのトスをあげた時のような………。 そんなスッキリする、気持ちだったんだ。 友哉の視線と僕の視線がぶつかって、友哉が僕に覆い被さるように抱きしめて、僕をベッドに押し倒す。 体を強く抱きしめているのに、痛くなくて。 僕の首筋に強くキスをしているのに、ゾワッとするくらい優しくて。 あんなにイタシタのに、また体が疼いて……ジン、と熱くなってきた。 「キス……して、友哉………。また、入れて………友哉」 僕の言った歯茎が痺れるようなエロい煽りに、友哉は返事をすることもなくキスをして、僕の後ろに指を入れる。 友哉によっていい具合に開発された僕の体は、勝手知ったる友哉の指の動きに、有り得ないくらい感じて………。 ヤバ、イキそう。 ………だって、さ。 友哉が好きなんだよ。 だから、友哉とずっとひっついていたいってのは、必然で当然で。 「友哉ぁ……早く、入れてぇ………」 なんて………よがって、煽って、その気にさせて。 こんなコト、親父が知ったらどう思うかな? 「由紀さんと友哉くんは似てるからなぁ。やっぱり親子なんだな、好みが一緒だなんてさぁ」 なんて、とぼけたことでも言うかもな。 ………へへっ。 幸せ………だ。 僕は今、すっごく幸せだ。 「円佳ーっ、バーベキューセットってどうすんだ?車に積み込む?」 「全部付いてるよ、食材だけ準備すればいいから。途中のスーパーで親父に買ってもらおうぜ」 倉庫から叫ぶ友哉の声に、僕は着替えとかの最低限の荷物をラングラーに積み込みながら答えた。 友哉と家族になって、義兄弟という立場になって初めて、僕たちは家族旅行に行く。 まぁ、ホテルとか温泉とかは、なんかこっぱずかしくて。 以前、合宿で利用したことのある、山ん中の廃校になった小学校を宿泊施設に改装したトコに行くことになったんだ。 もちろん、この一泊二日の小旅行、僕たちが企画・立案して、費用は僕と友哉のバイト代から捻出した。 ………まぁ、親父たちにこれといったプレゼントもしていなかったから。 今まで育ててくれたお礼と、これは言わないけど僕と友哉を、また元に戻してくれるきっかけを作ってくれたお礼を兼ねて。 とにかく、新しい家族4人での思い出になることがしたかったんだ。 「友哉………体育館あるけど、軽くバレーなんかする?」 「あぁ、持ってくよ、シューズ。そのかわり」 「そのかわり?」 「堂々と………円佳を描いていいか?」 「………いいよ、恥ずかしいけど」 「じゃ、脱いでくれる?自然の中で裸体、描きたいんだけど」 「!!……調子のんなっ!!」 お互いの気持ちを確認して、生じていた深い溝を埋めて。 僕らは、なんだかんだ言って義兄弟を超えた存在になった。 まぁ、そんなことは表向きには大声でいえませんが………。 僕は今、僕史上、最大級に幸せで充実していて。 ………幸せを手に入れた自分が、なんかくすぐったいような………そんな感覚に陥って。 気がついたら、バイト先でも買い物中でも、変にニヤついている自分がいる。 正直、気持ち悪いヤツだよ? 友哉と家族に義兄弟になりましたって言われたあの日。 僕は、色んなモノを失った。 親父が俺に向けていた視線とか、男としてのプライドとか、それまで築いてきた生活とか、………なんでかよく分からないけど処女まで失って。 守っていたモノが一気に崩壊したんだ。 そのかわりに………僕はかけがえのないモノを手に入れたんだ。 人を好きになること、とか。 人に愛されること、とか。 それをひっくるめて信じること、とか。 全部、友哉がいなかったら気がつかなかったかもしれない。 そんな単純なこと、他の人にはすごく簡単なことなんだろうけど。 僕にとったら………友哉にとっても………全然簡単なことじゃなくて。 変なトコで意地を張っちゃった分、それ以上に素直になれちゃうし。 評価が最低だった分、それまで以上に友哉を思いやることができるし。 遠回りをした分、友哉をとても愛おしく思うんだ。 「実はさ、友哉には黙っていたことがあるんだけど」 「何?」 「僕たちが泊まる部屋、元校長室なんだよ」 「へぇ、そうなんだ」 「親父たちの部屋からも、他の部屋からも隔離されてるんだよね」 「うん、そうなんだ」 「だから、ね………結構、色んなコトもできるとおもうぜ?」 「知ってる」 「え?」 「インターネットで検索済み。俺が〝予習〟をしてないわけないだろ?」 「…………」 「何年、おまえを守ってきたと思ってんだよ?おまえのことなんか、全部分かんだよ?円佳」 友哉の笑った顔が、本当にキラキラしていて、僕の胸野柔いトコを深くえぐってくるから。 僕は恥ずかしくなって、友哉を直視できなくなってしまった。 「なぁ、友哉」 「何?」 「まだ、義弟とか義兄とか、こだわってる?」 「………そうだなぁ、その関係は多分俺たちが死ぬまで続くわけだろ?結婚って言う肩書は、離婚したらそれっきりだけど、俺たちの関係は何があってもずっと続くから。普通の恋人や夫婦より、深く繋がってるって、思うから………」 「思うから?」 「こだわってもいいんじゃない?弟くん」

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