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第2話
手の中でオルヴァータの陰茎が限界を迎えそうであることを悟ると同時に、ワーティカがリツォンテの裾を捲り上げる。露わになった腿へと爆ぜた。白濁した粘液が焦らしながら滴っていく。量が多かった。日々定期的に出しているわけではないらしかった。
「舐め取れ」
ワーティカは、はひはひと赤い顔をして悦楽に蕩けたオルヴァータに奴隷市に見目の良い女奴隷を求めに来る客の笑みを浮かべた。黒髪はリツォンテの腿に顔を埋める。生温かく湿った舌が膝から上を舐め上げる。
「…っん、」
くすぐったさに身を捩る。ワーティカが真横に座り、肩を抱いた。奴隷市の遠くに見えた幼い女の子を連れたまだ自分自身でさえもそう大人ではない女の子の眼差しだった。
「あれに好き勝手されるのが勿体ないくらいだな」
ワーティカの話は右から左へ流れ、くすぐったさと恥ずかしさに身を縮める。舐め取り終わった柔肌を赤い舌がなぞった。奴隷を選ぶ貿易商の富豪が首に巻いていた大きな白蛇が口から出す舌と同じく舌先が2つに割れている。生まれついてのものなのか、そうさせられたのかは分からなかった。
「あ、ぅっ」
両膝を震わせ、ワーティカに支えられる。白い腿に散った残滓がすべて舐め取られ、オルヴァータは首輪を引かれ、リツォンテの下肢から退いた。ワーティカはリツォンテからオルヴァータの傍に寄り傷だらけの小麦色の肌を撫でた。
「溜まった自分 の味はどうだった?美味かったか?」
四つ這いに戻る黒髪が縦に揺れた。ワーティカはふふんと鼻を鳴らし、緊張しているリツォンテを見た。
「わたしの部屋にも来たらいいよ。あれに構うことはない。なんなら迎えに来るかい?」
ワーティカはまるで汚れた椅子に座ろうとでもするかのように下腹部よりも大きな蚯蚓腫れや痣のある背中を払い、リツォンテに座るよう促す。リツォンテは下を向くオルヴァータを一瞥してからワーティカに躊躇いながら首を振る。心臓の音が速まっていた。ワーティカはそうか、と呟いて客人に拒まれた背骨の浮かぶ座面に乗った。首輪から伸びる縄が波打ち、オルヴァータは牛の如く進んでいく。見送ろうと立ち上がったがワーティカは首だけ後ろに倒して断った。
「見送りはいいよ。そこで御主人様 を待っていな」
持主はどこにいるのか。何故帰ってこない。威圧的な青年だったが、よく笑いよく喋る同じ顔をした女を識ってしまうと、あの者が恋しくなり、フリルの多いブラウスを抱いた。
◇
エルトカールが部屋に戻ってきたのは夜が更ける少し前だった。よろついて扉を開ける。リツォンテは走り寄った。片手で身体を支え、身体は大きく傾いている。触れようとしたが、失礼に当たるのではないかと思うと直前で下ろされた。漏れ出るような呼吸を繰り返し、エルトカールは目の前に立つリツォンテに抱き着いた。
「ご主人様…?」
「疲れた」
エルトカールの体重がかかり、脚を開く。肩に乗るカールした銀髪に顔を埋めると一言掠れた声を上げ、動こうとしない。細く薄いリツォンテの背に腕を回したままでいるため、2人で床に少しずつ屈み込む。
「ソファへ、お運びいたし…ます…」
見た目から困難だと思ったが、奴隷に無理は無いのだと何度も教わった。鞭の痛みと共に痛覚に刻まれているのだ。膝の上に上体をのしかけたままのエルトカールを持ち上げようとするものの、体勢もあり、力が出なかった。巨大というわけでもなく中肉中背で、背は高くしなやかに筋肉はついているようだが、腰が引き締まっているせいか華奢な感があった。リツォンテといえば成長期にろくな運動もできず栄養のある食事も摂れず、背はあまり伸びず、筋力も発達しないままでいた。エルトカールの両腋に腕を入れ、抱き起こそうとするもののやはり持ち上がることはない。
「いい…ここにいさせろ」
リツォンテの平らな胸元へ美しい顔が辿るように落ちていく。通った鼻先が上等な生地を押し、リツォンテの胸を押した。うう…っと腹が引き攣れたような声が聞こえた。背に回された薄い掌が強くリツォンテを締める。手も腕も身体も、小刻みに震えていた。小さな嗚咽が聞こえる。触れていなければ気付かないほどだった。暫くの間エルトカールはリツォンテの胸に張り付いていたが、鼻を小さく啜ると顔を上げた。
「すまない」
リツォンテの顔を撫でて、自身は顔を見られたくないらしく背を向け部屋の奥へと消えていった。人形だらけの室内に残されると、扉の脇に立った。奴隷商からは邪魔にならないところに立て、無ければ四つ足にでもなって家具の下に控えていろと教わった。腹が鳴りそうになったが力を込めると音が立たないとも教わった。
「かわいい牡 、あれは君 に間食 をくれなかっただろう。おいで」
ワーティカが通りかかり、真っ暗な室内を覗き込むと脇に立つリツォンテに少し驚いたようだったが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「あ…っう、」
所有者以外から餌をもらう奴隷はムシケラだ!
奴隷商の怒声がふと蘇り、断らなければとすぐに浮かんだが、断る言葉が浮かばなかった。
「要らないかな?少し痩せすぎだ。それじゃあ、あれの種馬 にはなれないな」
ワーティカは奴隷市でよく見る笑みへと変え、リツォンテのフリルに覆われて膨らみのある袖を掴んだ。廊下に引き出され、連れて行かれる。オルヴァータの姿が見えなかった。きょろきょろとしていたのを見ていたのか、部屋にいるよと教えられる。
「気に入ったかな?あのどぶネズミちゃんが」
「…っぅ」
「わたしの前では普通に話せ。畏まらなくていい。君 はきっとかわいい弟 になろうな」
ワーティカと肩を並べないように歩幅を縮め後ろを歩いていたが、肩を組まれた。
「あの、ご主人様のご容態が…」
「ああ、構わなくていいよ。明日には治っているから」
「…は…ぃ」
エルトカールの部屋から少し離れたワーティカの部屋に案内される。エルトカールの部屋と同じくらいの広さではあったが壁中に人形がないだけで随分と広く感じられた。中心に薔薇の絵が描かれた白と金のテーブルと同じ調子のイスがある。すでに客人がいた。ダークレッドと黒を基調としたレースやリボン、フリルに覆われた、長く真っ直ぐな濡れたような黒髪と宝石を嵌め込んだような紅い瞳の美女だ。ソファで隣にいた人形とそう変わらない眼差しは光に照るテーブルに落ち、生きているものだが生きていないようだった。パープルのリップカラーを小さく引かれている唇は結ばれている。
「びっくりしたかな?」
リツォンテの前にまるで首を傾げるように上体ごと傾けてワーティカは訊ねた。かなりの上機嫌で、リツォンテから離れ人形と化した美女のほうへ寄って行く。
「ほら、リッツァが来てくれたぞ。歓迎なさい」
背後から両肩を柔く抱き、頬の横から覗き込むと人形へ挨拶を促す。椅子から立ち上がり、彼女は固い仕草で挨拶する。
「オルヴィア。不愛想な子だけど、よろしくね」
オルヴィアとワーティカによって紹介された美女はリッツァを見ることもなく、床を凝視していた。
「ぁ…はい…ぼく…ぁう…リッツァは、リッツァと申しま…す…」
オルヴィアのエルトカールとはまた違う冷たい美しさに圧倒されながら自己紹介する。掛けたらいいとワーティカにイスを勧められ、一瞬躊躇ったが命令として着席した。オルヴィアの対面だった。
「少し待っていて。すぐに紅茶とケーキの用意をするから」
ワーティカが部屋を出て行き、リツォンテも後を追おうとしたが、座っていて!と叱られてしまった。先程までテーブルの表面だけを見ていた紅い瞳がリツォンテを射抜いているため、今度はリツォンテがテーブルを見下ろす番となった。何か気の利いたことを言わなければ、場を盛り上げなければ、持主の家の者の客人に恥をかかすつもりかと奴隷商で習ったことが蘇り、己に圧がかかっていく。
「緊張しなくていい」
先に口を開いたのは目の前の美女だった。女性にしては低い声をしていた。リツォンテは、え?と顔を上げる。不自然なほどに目元が黒ずみ、長く濃い睫毛が瞬く。
「ご…めんなさ…い…」
紅い瞳と目が合ったが、逸らされてしまった。幻聴だとすら思えた。エルトカールやワーティカに似た威圧を感じながら沈黙に震える。緊張するなと言われたのだから緊張してはいけなかった。しかし思うように緊張は解けない。ワーティカが戻ってきて、2人にそれぞれ紅茶を汲み、ケーキを切って小皿に乗せる。荒いタルト生地に乗ったチーズケーキと大量にストロベリーが積まれたタルトだった。
「リッツァ、わたしはね、君や彼女 みたいな可愛い子が可愛い服を着て、ケーキを食べている姿が大好きだよ」
一仕事終えたワーティカはリツォンテとオルヴィアの間に座って紅茶を啜った。リツォンテは改めてオルヴィアを眺める。黙々とチーズケーキを口に運んでいる。パープルに塗られた唇が動いている。それからじっと自分を見ていたワーティカに目を戻す。
「気付かなかったかな?」
「は、…い…あの…」
「なんだい。言ってごらんよ。君 とは上手くやっていきたいと思っているんだよ。あれはろくでなしだからね」
先程会った時よりも朗らかだった。
「ワーティカ様は…お召し上がり、に、ならない…んですか…」
「ありがとう。わたしはいいんだ。今は君 が食べているところが見たいよ」
リツォンテを見てから、まだ手の付けられていないケーキを一瞥し、それからエルトカールには似ていない溌剌とした翠の瞳が戻ってくる。リツォンテは早く口にしなければとは思うものの、エルトカールからの仕打ちを恐れ、切られたチーズケーキの先端をフォークで切り崩すまでにひどく手が震えた。
「わたしが何か毒でも入れたと思っているのかな」
「あ…ぁいいえ…そういう、わけでは…」
ワーティカは妖しく笑うとリツォンテのフォークを握った手を取りチーズケーキの欠片を刺し、リツォンテの手を握ったまま彼女自身の口元へ持っていった。
「君 の手から食べるとまた格別だ。これでいかがかな。何も毒は入ってやしないよ」
フォークに絡まったリツォンテの指を優しく解き、ワーティカがフォークを握るとチーズケーキを切り、刺し、オレンジのカラーが引かれた唇の前へと運ぶ。口を躊躇いがちに開くと、顔の周りを遊んでいた毛を耳へと掛けられた。そして口内にチーズケーキが置かれ、酸味と甘み広がった。
「とってもかわいい。どう?美味しいかな」
「は、い…」
リツォンテは対面のオルヴィアが気になってしまっていた。黙々とチーズケーキを食べ、ストロベリータルトも積まれている果実をひとつずつ食べていた。
「欲しいならあげるよ。けど、あれが何というだろう」
「え…?」
「おいで、オルヴィア。かわいい牡 」
対面のオルヴィアは立ち上がりワーティカの目の前に跪く。ワーティカは自身の掌にフリルと袖留のリボンやビジューが大きく目を引きレースに覆われた手を乗せ、立ち上がらせる。
「もうお仕事の時間は終わったからね。わたしは一日中働かせるのは好きでないんだ。リッツァ、君 のところではどうだろう?」
オルヴィアに背を向けさせ、ワーティカは膝へ乗せた。男女の体格差などまるで気にせず、オルヴィアは微かに眉を動かしたが求められるままワーティカの膝に座らされる。衣類の上質な素材の上を白く細い手が這い回る。
「君 がそんな物欲しげな目で見るから、あげてもいいと思ったが…突然惜しくなってしまったよ」
「ぁ…ぁ、そんな、そんな…つもりじゃ……ありま…せ、」
「ァ…っ」
赤のロングドレスとその黒のレイヤードスカートの裾が大きく捲り上げられる。筋肉の付いた腿までが薄く黒い布-ストッキングに締め上げられていた。リツォンテは目を剥く。黒く光る厚底のハイヒールブーツから腿の肉がストッキングに締め付けられて小さく膨らみを持つ箇所、そしてさらにその奥の何も身に付けていないために外気に晒される首を垂らした茎。
「君 もご存知の陰茎 はね、君 のご主人様をいっぱい悦ばせたところなんだよ」
ワーティカの表情は見えなかった。オルヴィアは顔を両手で覆ってクビを振る。青みを帯びた黒い爪が肉竿をくすぐっている。まるで泣いているように肩が跳ねていた。
「あ、の…ワーティカ様…あの…」
「困ってしまったかな?多感な君くらいの子供には刺激が強かっただろう?でも、ほら。君はあまり甘い物が好きではないようだから、苦いミルクでも飲みたいのかと思って…生憎と今日は薄いかも知れないが」
まるでそのような雰囲気は出さなかったが、ワーティカはリツォンテがケーキを食べなかったことに深く気分を害しているらしかった。リツォンテは黙って首を振り、ケーキを口へ運ぶ。
「ァァ…っ」
隣から聞こえるくぐもった声に耳を塞ぎたくなった。空腹ではあったが食欲はケーキを求めておらず、かといって他の食べ物を求めているわけでもなかった。
ワーティカの指が少し勃ち上がろうとはしているが萎えている茎を扱いている。美女の外観にそぐわないくせどこかとても似合っているその器官に目眩がした。
「ァ、ァンン…ッァ、」
「もう出ないかな。出そうにない?」
「は…い、もう……出ませ…んッンン」
柔らかな袋を空いた手で掬うと揉み込まれ、薄い皮に包まれた大きく淡い葡萄の実を長い爪が弄ぶ。それは脅迫だった。
「情けないことだな」
嬌声を上げ続けるパープルの唇に、小皿を引き寄せるとタルトを切り、運んでいく。
「は……っァァ…」
「従僕だよ。わたしが出したものなら何だって口にしてしまうんだから」
小さく蠢いた双実を突ついていた手で顎を支え、勃起の気配のない茎を弄ぶ手でフォークを握り、丁寧に刻んだケーキを口に入れていく。フォークの先を下に向かせ、汚れた唇からゆっくり引き抜いた。オルヴィアはワーティカの膝の上で震えている。大きな瞳が潤み、膝を擦り寄せた。
「あ…の…あの…」
皮膚の下が薄桃に染まっている。オルヴィアは顔から口元を覆って、漏れ出る声を押さえているらしかった。リツォンテはワーティカには背を向けているこの異変をどう伝えようか思案した。
「ァン…ぁ、ァァ…」
「自分でいじったらいいだろうに?」
リツォンテの顔がかっと熱くなった。ワーティカに声を我慢しようとする手を取られ、反応は薄かったくせ幾度か頷いている股間の肉茎のさらに奥へ導かれる。躊躇いがちな指がそこにある何か栓らしき物に触れた。
「ほら抜いて。自分で気持ちヨくなりなさい」
オルヴィアの身体から、浅く細かな凹凸の陰が引き抜かれる。パープルの唇から引き抜かれていったフォークのような鋭利さは無いが、円柱状の生々しい形が少しずつ露わになる。そこに入っているには質量がある。
リツォンテは言葉を失って、小皿にフォークを落としてしまった。高い音で我に返り、失礼しました!と詰まった物が取れたような勢いで叫んだ。呼吸が荒くなり、暑さと寒さに襲われる。
「この爪で引っ掻いたら痛いだろう?自分でやるしかない…そこの可愛い子に頼めるかな?」
耳元で囁かれオルヴィアは唇を噛んで首を逸らした。震えた手から引き抜かれた男根を模した物が床へ転がる。
「あ…あ、ワーティカ様、その…彼は…大、丈夫なんで、すか…?」
「こいつは知らない。でも君は大丈夫だよ。随分と可愛い心配をするのだな」
ワーティカは大きなフリルとギャザーの入った袖でも分かる細腕でオルヴィアの両脚を持ち上げた。リツォンテの前に薄紅色の窄まりが露わになる。上に垂れた肌筒がぴくりと張った。
「見られて少し昂ぶったようだ…ほら、指を這わせて。わたしがやってもいいけど、この爪だ」
リツォンテに笑いかけてから、オルヴァータにはしなかった優しい声音でオルヴィアに囁く。長い爪を目の前で開かれオルヴィアは長い睫毛を伏せた。蕾に指が触れ、小さく盛り上がった蕊に挿し込まれる。
「あっ…ァ、ぁ…っんん…っ」
「上手。そのままゆっくり…」
リツォンテはぽかんと口を開いたまま身動きひとつ出来なかった。
「は…ッァ、あぁ…」
挿入されている豪奢な手が動く。フォークを持つ手を震わせながらリツォンテは、リボンが揺れる手から目が離せなかった。リツォンテは何度か呼ばれたが気が付かず、瞬きも忘れてオルヴィアの体内に出たり入ったりしている指を眺めていた。背中と足先は寒いがそれ以外が酷く暑く、身体が汗ばむ。
「リッツァ、そこに落ちているそれを取って、ここに挿れてあげてくれないかな」
言われたことは分かった。落ちた、気味の悪ささえある大きな男根を見下ろした。だが拾い上げてどうしろと命じられたのか聞いていたというのに理解出来なかった。しかし、奴隷に理解など必要ないのだ。奴隷がすべきことは理解ではなく命令に従うことなのだ。奴隷商に身を置いてしまえば商人を各々その身に孕んでいるのだ。
「リッツァ?」
「…は…い…」
ワーティカの声色は優しい。オルヴィアの指が女の手によって退けられる。男根の先を収集する窄まりに当てた。迷いが現れ、リツォンテは力を込められなかった。
「リッツァ?どうしたのかな。怖い?」
「こ、わいで…す…」
「ほら、お前が自分で頼まなければ」
オルヴィアの溶けて溢れそうな紅い双眸が哀願する。挿れて、挿れて…と掠れて高い声で繰り返す。
「リッツァ、気持ち良くしてあげてくれ」
男根の模型の先端の括れを突き入れる。皺の寄っていた粘膜が盛り上がり、呑み込んだ。
「あ~ッぁ、ぁあ…ああっ!」
オルヴィアの身体はワーティカの膝の前で大きく波打った。翠の目が驚きに見開いた。リツォンテも驚いて手を離してしまう。先端部が蕾に挿し込まれ模型は、蕾の蠢きと共に大きく揺れ、そして再び床へと転がる。
「まだ先端だけだぞ?随分と淫らな牝 だな」
「あっ……は…っぅ、ん…」
長い爪の伸びた指が、激しく上下しながらも段々と落ち着いているオルヴィアの下腹部を拭っている。殆ど透明ながらもわずかに白濁の混じった体液が躍ねている。
「リッツァ。もう一度。今度は全て挿れて」
「ぁ…の、でも……」
身の内に秘めた奴隷商の人間に逆らった。存在していたのかも怪しかった。そしてエルトカールは冷たかったがワーティカは優しく、リツォンテは檻の外の人間を他に知らなかった。
「とても気持ちの良いことらしいからね。恐れることはないよ。助けてあげてくれないかな」
「…は、い…」
男根の模型を拾い上げ、オルヴィアの閉まった粘膜孔に押し当てる。一息に根元まで貫いた。ワーティカの膝の上でダークレッドとブラックのドレスが暴れる。心臓の鼓動が大袈裟になったようにがくがくと身をのたうたせ、悲鳴を上げた。狼狽えるリツォンテに、ワーティカはそのまま男根の模型を動かせと言った。動かすとはどうしていいのか分からず、回転させてみたり、振動させてみたり、抜いたりまた押し込んだりした。内部の肉の抵抗に従いながらも抗い返しながら。オルヴィアはパープルの唇から唾液を垂らし、悶え、喉が焼き付くほどに叫び散らした。ワーティカの腕に縋り付き、腰を跳ねさせる。半分ほど固くなった陰茎から粘液が出ていた。
ワーティカの機嫌を窺おうとするのと同時に廊下から怒声が聞こえた。
「リツォンテ!いい加減にしろ!どこで油を売っているんだ!」
「おやおや、御転婆娘 が出てきた。ありがとう、リッツァ。帰ってやるといい」
リツォンテは顔を真っ青にし、ワーティカに辞儀をして廊下に走り出る。扉を開けると上体を小さく逸らして開いた扉を避けるエルトカールの顰めっ面があった。謝ろうとしたがふわりと抱き締められる。
「ああリッツァ、探したよ。いけないだろう、勝手に外に出たりしたら…」
顰めっ面の美青年は柔和に微笑み、目線を合わせると頭を撫でる。
「帰ろうね。お腹が空いているだろう?」
美青年はリツォンテの両膝の裏を掬い、抱き上げた。ワーティカの私室の扉を睨みながら振り返る。
「ここに近付いたらいけない。八つ裂きにされて、喰われてしまう」
怖いだろう?と紅い瞳に覗き込まれ、リツォンテは数度勢いよく頷いた。
「何が食べたい?………何か食べたな?」
エルトカールに口元を見られ、リツォンテは慌てて隠した。
「隠すことはないだろう。可愛いそなたの唇が見えないじゃないか。美味しかったかい」
リツォンテを探していた怒声が 嘘のようにエルトカールはワーティカによく似た笑みを浮かべる。また数度頷いた。
「それは良かった」
大きな屋敷に小さな会話が響いた。長い廊下を曲がり、中階段を降りる。
「ご主人様…」
「なんだい」
「あの、ご容態は…?」
広いエントランスを歩く。ワーティカの私室にしか照明が点いておらずどこも暗かった。エルトカールは黙り込んでしまった。訊いてはいけないことだったのかも知れない。怒鳴られか、蹴られるか、殴られるか、最悪の場合はこの見ず知らずの土地に放り出されるかだ。返答を待つ間、不安に震えた。寒気がする。エルトカールの触れる膝裏と背が熱くて堪らず、そこからぞわりとした痺れのようなものが広がっている。
「リッツァ。具合が悪いのか」
自身の乱れた吐息に気付いたのは、廊下の先を見ていた美しい顔がリツォンテを再び覗き込んだのとほぼ同時だった。身体が火照っている。首を振り、冷たい風を感じる。エルトカールは柳眉を潜めた。落ち着かないガラス玉の視線が交差する部屋に辿り着き、ソファに寝かされる。既に座っていた人形は別の場所に移された。床に膝を着いて紅い瞳がわずかばかり高い位置からリツォンテを観察する。
「顔が少し赤いな。目も潤んでいる」
頬に当てられた冷たい手の甲の感触がぞわりとしたものに変わり、首や胸を伝って脚の付け根で渦巻いた。腹を深く上下させ、息を荒くすることしか出来なくなっていた。腕ひとつ動かすのが重苦しい。
「少し寝ていなさい。ベッドを直してくるから」
リツォンテのブラウスの首元の釦を外し、ソファの下からブランケットを引き出すと腹部に掛けた。エルトカールが立ち去ってしまう。脳裏でワーティカが嗤う。ワーティカに連れ去られてしまう。黒く長い爪に弄ばれてしまう。どこもかしこも。突然不安が押し寄せた。エルトカールの紅い瞳をじっと見つめていると、美青年はその眼差しに気付いたらしかった。
「リッツァ、そんな顔をするな」
自身のものではない髪を撫でられる。曇った感覚だったが、確かに脚の付け根に痺れが留まった。美しい声が低く耳に入ると頭の中のものが全て溶け出してしまいそうになり、エルトカールのより傍に近付きたくて仕方がなかった。段々とその衝動が強まっている。ブランケットとスカートの下の下腹部は膨らみを持ち始めた。
「おとなしく待っているんだ」
頬を掌に摩られる。身震いした。急激に膨らみは固さと熱を増す。触れたい、育てて、果てたい。不安な紅い双眸を受けながら、口内には欲望の唾液が溜まっていく。
「ご…しゅ……じっ、しゃ……ま、」
「リッツァ。いい子にしていてくれ」
耳を熱くし頭の中を融かす声と、揺れる唇に堪らなくなり己が立場も忘れて美男子の腕にしがみつく。
「…っリッツァ!」
「ごしゅ、じ……ん、あつ……い」
エルトカールは半狂乱になってリツォンテを抱き上げると部屋から飛び出してた。馬の尾のような長い黒髪が靡く。厨房と思われる暗い部屋に連れ込まれ、冷たい台の上が心地良かった。ガラスのコップが唇に当てられ、水が流れ込んだ。
「飲むんだ!毒を飲まされてしまったんだな!かわいそうに…」
嚥下が追いつかないが、エルトカールは次々に水を流し込む。スカートやブラウスに滴り落ちてもなお、リツォンテは溺れながら水を飲む。がぽ、ぐごご、と喉が鳴る。エルトカールは5杯目にコップを置いて、苦しげなブラウスの釦をさらに外すと頭を抱えた。やっと終わった水の責苦に台の上に倒れ、がふがふと水を吐き出すリツォンテを見てふと冷静な表情に戻る。身を起こそうとした腕が、カールした艶やかな長い銀髪を敷いてしまったがために、被せられた毛束は、艶を失った銀髪を晒していた。
「リツォンテ!」
水を吐き出すリツォンテを台から引き摺り下ろし、無防備な身体は厨房の床に叩き付けられた。大きく脚を開くと、機嫌を損なった奴隷の所有者は膨らんだスカートを凝視する。これ以上無いほどに眉間に皺が寄っていく。
「汚らわしい!貴様…!主人を謀 ったな!発情期のドラ猫め!」
足がスカートを捲り、フリルとレースに覆われた下着を押し上げる膨らみに歯軋りした。
「貴様はその薄汚い魔憑きの肉棒で主人を犯そうとしたんだ!」
エルトカールの履いていたブーツがリツォンテの幼い膨張を踏む。
「ぁううっ!」
痛みの中に焦れた甘い痺れが潜んでいた。エルトカールは嫌悪を込めて、ブーツを動かす。フリルとレースとその下地の布に包まれた敏感な蛹は、だが直接的でない痛みに甘やかな快感ばかりを引き出していた。
「汚い!潰してやる!魔憑きめ!」
「ぁ…っううっ、ぁ、いた…ぃ、」
「退治してやる…!」
ブーツの裏と下着の裏地に擦られ、びくりびくり肩が跳ねた。頭の中が本当に融けているようで、持主の嫌悪感のこもった狼狽えと叫びが物理的な刺激をさらに甘美なものにした。何かが迸ってしまう。口唇と咽喉で導かれたものよりもずっと疼きと熱を持って。
「あ…ぁぁ、ごしゅ、じ…っぁああああ!」
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