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まるでオレが振られたみたいだ(完)

「好きなんだ」 そう告白されたのは、メールで呼び出された先の校舎の裏庭。 正直言って告白してきた相手とは、友達の友達っていう間柄で特別仲がいいわけでもなく、 連絡先を一応交換してあるけど今日呼び出されるまで特に連絡したこともなく、 共通の友人・堤がいないとしゃべることも遊ぶこともない。 いや、そこはどうでもいいんだけど、それより何より1番問題なのは… 「…えっと…そういう相談とかじゃなくて相手オレ?オレ、男なんだけど」 相手もオレも、男だということだ。 うちの高校は工業化科なこともあって女子に比べて男が圧倒的に多い。 だからそう可愛くもない女子がやたらモテたり、「あいつらホモらしいぜ」という嘘かホントか分からない噂がよく出回ることがあるのは、工業科ならではだと思っていたが。 まさかいたって平平凡凡なオレが、男から告られる日がくるとは思ってもみなかったのだ。 「…相澤に告ってるんだけど。別に…期待はしてなかったから、大丈夫。」 相澤…間違いなくオレだ。人生初の告白がまさか男にされるとは… オレに告ってきた有栖川は割とカッコいいし、性格だって悪いわけじゃないし、女に困ってなさそうなのに…何でオレなんだ? そう思っているうちに告白相手の有栖川は、俺の横を通り抜け、走り去ってしまった。 (こういう時は追いかけるべきなんだろうか…) だけど追いかけたところで、オレはいい返事をしてやれないし、なんて声をかけていいかわからない。 そう悩んでるうちに、もう追いかけても意味のないほど時間は経ってしまっていた。 追いかけることなく終わったまま数日。 告白される前と何ら変わらない日常がある。 オレから有栖川にメールをすることもなく、有栖川から来ることもない。 いつものように廊下でたまにすれ違って、会釈をする。 堤も一緒にいる時ならちょっと話す。 なにも変わらない。 そう、なにも変わらないのだ。 有栖川はそもそも、オレに告白する前から全然そんな雰囲気を出していなかったけど、 告白した後、オレと堤と3人で話してても特に変わった様子もない。 ロクな返事をしなかったオレに対して返事を求めるわけでも冷たくするわけでも避けるわけでもなく、いつも通りの有栖川なのだ。 なのに俺は。 告られたあと初めて廊下ですれ違った時は心臓飛び出るかと思ったし、 それからだって有栖川とすれ違うたびに、話すたびに、「コイツオレのこと好きなんだよな」って、妙に意識をしてしまう。 「…何?さっきからずっと見てるけど。」 「えっ…や、なんでもない」 そう…それは無意識に有栖川をガン見してしまうほどに。 (これって周りから見たらオレのが有栖川のこと好きに見えるんじゃね…?) 返事を求められるわけでもないし、いや、求められても困るんだけど。 相変わらず有栖川とは友達の友達という関係から変わることがなかった。 告られてから2か月ほど経ったある日、堤に神妙な顔で話を持ち掛けられた。 「…なぁ、噂聞いたか?」 「…なんの」 「アリスがさ、アリスと同じクラスの前田とできてるって噂。なんか今めっちゃ噂になってるじゃん」 「…はぁ?!」 うちのクラスにいる前田はガリ勉で有名だが、有栖川のクラスの前田といえば学年1のイケメンで有名な男だ。 有栖川もイケメンだけど、有栖川は割と中性的というか綺麗目で女にモテそうなイケメンだが 前田は有栖川とは違って男らしい細マッチョで運動も得意で、男からみても憧れるイケメンだ。 そんなイケメン同士なら男同士でも絵になるんだろうな… てかそうじゃなくて、有栖川はオレを好きなんじゃなかたのか…? オレよりはそりゃ前田のがイケメンだろうけどさ… 「…てか、それ噂だろ?堤仲いいんだから噂が嘘かどうかわかんじゃねぇの?」 「え、さすがのオレも聞けねぇよ!別に偏見あるわけじゃねーけどさ、カミングアウトしてきてない相手に"お前、噂になってるけど男と付き合ってのか?"とか、流石のオレも聞く勇気ねーわ!」 「…どうせ噂だろ?前からよくあるじゃん。イケメンだからネタにされやすいんだろ」 有栖川が好きなのはオレなんだし…とは流石に言えないが。 「いや、でもさ、オレ昨日見ちゃって…」 「何を?」 「アリスが前田に抱きしめられてるとこ」 「…はぁ!?」 「ばっか…お前声でかいよ!」 驚きすぎてっ固まってるオレに、「しー!しー!」と言いながら堤は話を続ける。 「…オレがゴミ捨てに外歩いてたんだけどさ。そしたら窓越しに化学室にアリスがいるのが見えてさ。話しかけようと思って窓に近づいたら…ギュ!って!!! ちょっと前から噂は聞いてたし、確かに2人最近いつもいつも一緒だなーとは思ってたけど…そんなん目撃するとさー…ホントなんかなー…って」 「…」 「なぁ…どう思う?やっぱ噂ホントなんかな…?」 「……」 「なぁ、あいぽん…」 「…てかなぁ、そんな情報周りにまき散らすくないなら、本人に確認しろバカタレ!」 「あいた!!なんだよ、殴ることないじゃんかもー…オレだって相談できるのあいぽんだけだから話してんのに…」 「その前にあいぽん言うな、きしょい」 「ひどい!!」 堤に八つ当たりしてしまったけど、オレの衝撃は計り知れなかった。 有栖川はワザワザオレを呼び出して、告白してきたじゃないか。 たった2ヵ月だぞ。ついこの間だ。 オレを好きなクセに男ができるとか、そんなのありえん。 そんなわけない、そんなわけない。 そう言い聞かせながら堤を置き去りに1人廊下を歩くと、目線の先に噂の2人の姿があった。 イケメンの有栖川の隣にイケメンの前田。 少し遠くにいるけど、あれは間違いなくあの2人だ。 ここ2か月間オレは有栖川をガン見してしまってたんだから、遠目から見てもオレが有栖川を間違うハズがない。 2人はやっぱり、イケメン同士で、並んでいると男のオレから見てても絵になる。 遠くから見ても分かるほどに2人はとても仲良さそうに盛り上がっていて 前田はじゃれあって、有栖川の肩に腕をまわしてるし、有栖川もまんざらでもなさげで楽しそうだ。 2人がどんなに仲良くたって付き合ってるはずがない。ただ友達とじゃれあってるだけだ。 そう思うのに、オレの心はモヤモヤが晴れなかった。 「あ」 「…あ」 なんて日だ。 なんでかまだモヤモヤしたままなのに、放課後、よりにもよって他に誰もいない廊下で有栖川とバッタリ遭遇してしまうとは。 いつもなら帰宅部なオレはとっくに家に帰ってるはずなのに。日直だからって雑用押し付けた担任のせいだ。畜生め。 「「……」」 気まずい。いや、オレが気まずくなる必要ないはずなんだけど。 いつも会釈だけで通り過ぎる有栖川も、なんでか今はすっと通り過ぎて行ってはくれない。 なんでだ。2人無言でじっとしてるとか余計気まずい。 「…有栖川さぁ…お前、噂になってるの知ってるか?」 「…えっ?」 「お前と前田が付き合ってるって噂。今日初めて聞いたけど…ホントなのか?」 「…っ!」 思わずあの話題を振ってしまった。だって、どうしたってこの話題が気になってしまう。 嘘だよな?という気持ちで聞いたのに、有栖川は目を瞠って息をのんだ。なんだその反応は。 「…まさか、本当なのか?お前、オレのこと好きって言ってたのに…」 「…なっ…お前よくそんなこと平然と言えるな!」 「…え?だってこの前そう言ったじゃんか」 「…言ったけど…フツーそういうこと言うか?!だいたいこの前って、2ヵ月も前の話だろ!?なんで今更それを蒸し返すんだよ!」 その言葉に、今度はオレが目を瞠った。 なんてこった。 確かに2ヵ月前の話だけど、オレにとってはついこの間のことなのに、どうやら有栖川にとってはとっくの昔で、もはや過去のことになっているようだ。 しかも蒸し返すって… オレはずっと、告られてから有栖川を変に意識してしまってたけど、やっぱり有栖川は違ったのか。 有栖川にとってはオレが好きだったことなんてとっくに思い出になってて、もう忘れたかったのだろうか。 「…有栖川は、もうオレのこと好きじゃなくなってたのか…」 …なんてこった。 オレってば超痛いヤツじゃん。 いつまでも有栖川は自分を好きでいる気でいて、ずっと意識して、前田となんか付き合うわけがないと思ってて。 なんてこった。 有栖川がもうオレを好きじゃないと思った途端、有栖川を前田に取られたくないとか、 他のヤツを好きになってほしくないとか、オレのこと好きでいて欲しいとか。そんなことを思い始めるなんて… …オレはどんだけアホなんだろう。 有栖川がオレを好きで、オレは有栖川を何とも思ってなかったはずなのに。 こんなにも胸が苦しくなるまでなにも気づかないなんて。 こんなんじゃまるで 「…まるでオレが失恋したみたいじゃん」 「はぁ…!?」 思った言葉がそのまま口をついてでてしまった。 「何言ってんだよ、オレが言ったのを相澤がはぐらかしたくせに…!!よくそんなこと言えるな!!」 「あ…いや、うん」 有栖川よ、傷を抉ってくれるな。オレはもうお前がオレを好きじゃないってだけでこんなにもいたたまれない気持ちでいるのに。 「お前がそんなヤツだったって思いもしなかった…!!」 有栖川の追い討ちに、オレは不甲斐なく泣きそうになってしまったが、見つめた先の有栖川もなぜか泣きそうな顔をしていた。 「ごめん…そんな顔すんなよ。 だって有栖川がオレを好きじゃなくなったかと思ったらなんかショックで。 そしたら今更有栖川のこと意識してたの気づいて…でも有栖川はオレのこと好きじゃないしこれって気付いた途端失恋じゃん?みたいな。 なんかもう遅すぎるのにスマン。えっと…前田とお幸せに。」 有栖川の顔にオレはいたたまれなさすぎて、めっちゃ早口で言ってしまった。 あー、もう明日から有栖川の顔はしばらく拝めまい。 あの時の有栖川のように颯爽と横を通り抜けようとしたら、なんでか有栖川がオレの袖をつかんだからちょっとつんのめった。恥ずかしい。 「えぇっと…」 「…前田と付き合ってるなんて言ってないし、前田のこと好きなわけでもない」 「…はい?」 「それに、相澤のこと好きじゃなくなったなんて言ってない。」 「……えぇ?」 俯いてオレの裾をつかむ有栖川の手に、力が入った。 「オレ、まだ相澤のこと好きだ。2ヵ月とかで諦められる気持ちなら最初から告ってない。…でも相澤は告ってからも何も変わらないし、 前田と付き合ってるのかとか聞いてくるし…正直もう無理なんだろうなと思って。そんで…その…言い過ぎた。ごめん」 「いや、オレも、無神経だった。ごめん…」 「なぁ…さっきのって、オレ、期待していいの?すぐにじゃなくていいから、意識してるだけじゃなくて、好きになって欲しい」 そう涙目で上目づかいで言う有栖川を、思わず抱きしめくなってしまったのは、惚れた欲目なのだろうか。 (もう多分、好きになってるんだけど…) だけど多分じゃなくて絶対といえる日までもうちょっと待ってもらって、 今度はオレから、有栖川に告白しようと決意した。 終   (2014.11.08)

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