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おまけ・その後 (完)
あれから有栖川とは『 おはよう 』『 おやすみ 』のような、内容は大したことないけど毎日メールをするようになった。
廊下で会った時に堤がいなくても軽く会話するようになったし、時折有栖川が一緒にいた友人に「先行っといて」と言って、オレと話すために1人立ち止まってくれることさえある。
この間は堤抜きで2人きりで遊びに出かけて、内容はいつもと同じように普通にカラオケいったり映画いったりだべったりなんだけど、
いつもと違って"これはデートなんじゃないか?!"とめっちゃドキドキした。
そんな毎日を過ごしていたら以前に増して有栖川を意識してしまって、日に日に有栖川に惚れていく自分を自覚している。
今日も今日とて人気のない廊下で有栖川一行とオレが遭遇し、有栖川とオレだけが残って立ち話。
今日はちょうど人気が無いし…ずっと気になってたことを聞いてみた。
「…そう言えばさ、前に堤が有栖川と前田が抱き合ってるの見たって言ってたんだけど…その…ホントなん?」
「え、堤が?何それ?いつの話?」
オレの質問に、有栖川は首を傾げたが
(いつの話って…そんなに何回も心当たりがあるんかい)
と、口には出せないのでオレは心の中で突っ込んだ。
「…なんかゴミ捨て行った時に、化学室で抱き合ってたって言ってた」
「あぁ、掃除の時か。なんかさ、今年カメムシ大量発生してんじゃん?掃除の時もめっちゃいてさ、外へ逃がそうとちりとりに集めたカメムシをオレたちに向けてきたヤツがいたんだよ。前田さ、あぁ見えて虫が超苦手だから、めっちゃビビって近くにいたオレに飛びついたんだけど…マジで泣いてたから、前田には悪いけどちょっと面白くて笑ったわ」
そう言いながら有栖川はその光景を思い出したのか楽しそうに笑った。
ほっとした半面で、いつもの有栖川の笑顔は好きなのになんかその笑顔はもやっとして、自分で聞いたくせに「ふぅん」としか返せなかった。
…多分、前田とのことを楽しそうに話す有栖川を見るのが嫌だったんだと思う。
(……これって嫉妬か?)
そう思って初めて、"多分好きだろう"と思っていた気持ちは、いつの間にか確固たるものに変わっていたのだと気づいた。
そしたらなんか、今こうして2人でいることさえもどかしくなってきた。
やばい、むっちゃドキドキする。
「あ、あいぽんいたいた。あれ、アリスもいんじゃん?なんだー珍しい組み合わせだなー」
そんなオレのぽわぽわした空気を壊したのは堤だった。
「……今たまたま会ったから話してた」
「そうなんかー。あ、明日あいぽんと出かけるんだけどアリスも一緒に行く?」
堤がたまたまその場にいる友人も遊びに誘うことはたびたびあることなのだが、有栖川と色々あってから遊びに有栖川を誘うとこをは初めてだったので、少しどきりとした。
「…ふぅん。どうしようかな。どこ行くの?」
そう言いながら有栖川は堤ではなくオレを見る。…可愛い。
だがその視線が意味深に感じたのは気のせいだろうか。
「えっと…まだ決めてない」
「あ、なぁ映画どう?オレあの映画見たかったんだよ!ほら、あの魔法使いのあのやつ!今一番人気の!」
堤の発した言葉に、オレと有栖川は思わず目を見合わせた。
だって堤の見たいという映画は、多分、いや、間違いなく、この間オレと有栖川が初めて2人で出かけた時に見た映画だったから。
「な、いいだろー?」
返事を待つ堤に答えたのは、オレではなく有栖川だった。
「…その映画、この間の日曜にもう見たよ。オレと相澤で」
「え……?」
堤はぽかんと目を見開いた。
「え、何?2人ってそんな仲良かったっけ?今までオレがいなきゃ話もしてなくなかった?オレ知らなかったんだけど…!てか何で映画オレ誘わんの?もう見たとか、えー、ショックー…」
「あー、やー…はは」
堤はいつものように饒舌で、そして的確なとこをついてきたからオレが思わずたじろいでしまったせいか、余計堤にいじられる。
「え、なにその怪しい返事の仕方!もしかして、何…2人ってそう言う関係とか?そいえばあいぽんアリスと前田の話言ったらやけに怒ってたもんねー!」
堤の言い方は以前アリスと前田の話をした時のような神妙なものではなく、明らかに冗談めかしたいい方だったが、今のオレにはその冗談は全然冗談じゃなくってカーっと顔が熱くなる。
そして堤の言葉を聞いてオレの方を見上げた有栖川が、心なしか、ちょっと嬉しそうに見えて余計カッとなった。
「~~~っ馬鹿野郎、そんなんじゃねぇよ!お前はそうやって何でもかんでもホモ扱いしやがって!」
バコッ
(今自分の気持ちを確信したばっかりなんだから、今はまだそんな関係じゃねぇよ!)
って意味と照れ隠しで思わずばちこんと叩いたのだが、有栖川にはどうやらそうは伝わらなかったらしい。
有栖川は急に表情を曇らせたかと思うと
「…オレ明日用事あったんだった。悪いけど、やっぱパスで。じゃあな」
そう言い残して去っていってしまった。
「えっ…」
「おー?アリスまたなー」
堤は有栖川の背に手を振りながら、「…やべー、アリスにはこういう冗談通じなかったかな」と呟いてたが、多分あれは堤のせいじゃない。
だって堤の言葉を聞いた後は、嬉しそうな顔をしてたし…
(オレのせいだ…)
きっとオレが有栖川の気持ちを知りながら、堤の言葉を全否定したから。
" そんなんじゃねぇよ!お前はそうやって何でもかんでもホモ扱いしやがって! "
それどころか、さっきの言葉はまるで…
(…まるで遠まわしに振った挙句に、ホモ扱いすんなって言ってるようなもんじゃん…っ)
サーっと一瞬で血の気が引いて、一目散に有栖川の後を追いかける。
堤が後ろでオレを呼ぶ声が聞こえたが、それどころじゃない。
オレが全力で走っていくと、有栖川が歩いていたおかげで階段の踊り場あたりで追いつくことができた。
「…っ有栖川!」
声をかけると有栖川はビクっと肩を揺らしてから立ち止まり、ゆっくり振り向いてくれたが、オレの目を見てはくれなかった。
「……ごめん、有栖川。さっきのはそういうつもりじゃなくて…」
「いいよ別に。…相澤は元々ノーマルなんだろ?オレのこと気になるって言ってくれても…付き合うのは別なんだろうなって、なんとなく思ってたし。あのくらいきっぱり言われた方がオレも次に進めると思う」
そう言って有栖川はオレの目をやっと見たかと思うと、寂しげに笑った。
「……っ」
(そうじゃないのに…)
考えなしで発した無神経な一言で有栖川を傷つけてしまうなんて…この前からオレなんも成長してないじゃないか。
不甲斐ない自分を情けなく思っていると、
「……堤待ってるんじゃない?じゃあね」
そう言って有栖川がまた立ち去ろうとしたので、ガシッと慌てて腕をつかむと、有栖川は明らかに顔をしかめた。
「いや、本当にそう言う意味じゃなくて、堤のあれはいつもの冗談だからそれらしく返しただけで……えっと、なんつーか、こういうタイミングで言うんじゃなくてちゃんと言いたかったんだけど…」
有栖川の顔は相変わらずしかめたままだったけど、そのまま言葉を続けた。
「…オレ有栖川のこと好きだ。付き合って欲しいと思ってる」
そう言うと、さっきまでの表情を一変してぽかんとした後に有栖川が
「……嘘だぁ」
と言いながら瞳をゆらゆらと揺らして嘘かホントか判断しかねている様子だったので、オレは「ホントだよ」って言いながらぎゅうって手を握った。
有栖川は繋がった手を凝視しながら、笑いそうで泣きそうな、何とも言えない感極まった顔をしていたので、オレもなんか嬉しくて泣きそうだった。
(これで晴れて両想いか…)
オレが感傷に浸っていると後ろの方からまた「……嘘だぁ」と聞こえてきたので、
ん?と思って振り返ると、そこにはオレたちを追いかけてきた堤がぽかんとした顔をして佇んでいた。
それを見たオレも有栖川も一緒にぽかんとしてしまったが、あまりにも堤が間抜けな顔をしていたので、なんかおかしくなって笑った。
終 (2015.8.18)
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