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第24話

-漣-  ベッドに寝かされて緋野は保健医に何か適当なことを言っていた。カーテンを閉められても俺はまだファスナーを下げられなかった。早く外して外に出したい。靴下でシーツを蹴ってしまう。()れた分のシーツを戻そうと引っ張った。早く出したい。ファスナーに触れる。この期に及んでまだ理性の(かす)が下げることを躊躇っている。出したい。外したい。苦しい。確かに一度教室で限界を迎えたはずなのに元の大きさに戻らない。足音がひとつ消える。起き上がるのも億劫だった。カーテンを開ける。保健医がデスクにいた。新寺(しんでら)とかいった。見た目はまだ若いが白髪が目立つ。見た目は怖そうだが口を開くと意外にも物腰は柔らかく顔も綻ぶ。ほんのわずかに身体が落ち着いた。 「あ、美潮くん。調子はどうだい」  カーテン閉めたが遅かった。デスクを立った足音がする。そしてカーテンが開いた。能登島と同じタイプで、俺は苦手だ。 「…大丈夫です。少し大袈裟だったかも知れません」 「ううん。調子が悪くなったらすぐ来てくれよな。とりあえず体温計」  緋野より若いはずだな無骨な手をしていた。ウェットティッシュで拭かれた体温計が箸のように見える。受け取ろうとしたがシャツに手を掛けられ新寺に腋へ体温計を挿し込まれる。そして頬や首に手の甲で触れた。 「少し汗かいてるね」  新寺も能登島と同じ目をしていた。覗き込まれると目を合わせていられない。 「緋野くんとは幼馴染でさ。緋野くんの双子の弟さんと仲良かったんだ。オレのほうが1つ下なんだけど」  ベッドの端に腰を下ろして体温計が鳴るまで新寺は話した。少し動揺している。どうしてそんな話をしだしたのかは分からない。話が弾んでいるような感じがあった程度の印象しかない。それよりも緋野が双子だということに驚く。あれがもう1人居る家庭を想像して苦しみのうえに厄介な胃もたれが加わる。 「顔は見分けがつかないほどよく似てるんだけど、弟さんのほうが柔らかい感じがするな。だから分かるんだけど」  話し終えた時に体温計が鳴った。熱はなかった。当たり前だ。体調はどこも悪くない。明らかな外的要因がある。新寺の平和ボケしたような雰囲気に忘れかけていた。保健医は天職かも知れない。皮肉か。ただ電流が通るような痺れは消えた。 「熱はないな。貧血かな?勉強頑張り過ぎたか?」  体温計をウェットティッシュで拭き取ってケースに戻す。 「悩みがあれば信用できる先生に相談するんだ」  大きな手が俺の頭に乗った。今の時代ならセクハラだ。性別も関係なく。 「信用できる教師がいなければ…?」  屈託のない表情は能登島に重なる。無邪気な手を潜り抜けた。どうして信用できる教師がいる前提なんだ。信用に足る教師なんぞいたか…?いや、俺という存在(せいと)が潰したのかも知れない。 「…そうか。情けない話だけど…外部の機関に頼ったって、友人にでもいい」 「友人なんていませんよ」  それに、家族の(しがらみ)ばかりは深く根を張って、誰にもどうこうなんて出来ない。虐待もネグレクトも貧困もない。話し合って分かるなんて大嘘だ。新寺は傷付いた表情をした。こんな俺の主義主張(わがまま)をこの教師(ひと)に言っても仕方ない。 「そういう生徒(ひと)も居るって話です。もう大丈夫です。授業に戻ります」  トイレに行って訳の分からない器具を取ってから。新寺は黙り、やがて保健室のドアが開いた。 「せんせ…」  能登島の声がカーテンの奥で聞こえた。 「えっと…美潮…?」 「礁太かな。どうした。美潮くんはここだよ」  カーテンが開く。緋野もいた。能登島にしがみつかれている。新寺は何も気付いていないらしい。見ないフリをしているのか。能登島と同じ目で緋野を見ていた。 「少し話がある」  緋野は新寺だけ呼んで2人は出て行った。意味ありげな視線を受け取る。能登島の激しい動揺を俺は黙って観察していた。 「能登島」 「…ゴメン」  帰ろうとする奴を慌てて起き上がって引き止めた。勃ったままの場所が痛い。呻いてしまう。それを奴は聞き取ったらしかった。恥ずかしそうな顔をもっと見たくなる。 「来い」  能登島はベッドに近寄った。そのままベッドへ腕を引く。俺の上に影が重なった。軽いけど重みが乗る。 「美潮」  胸に頬擦りするような体勢になって近付いたキラキラした目にただただ拷問になっている前が膨らむ。シリコンバンドが食い込む。スラックスの内側に押し込まれ折れる。 「ぃっ…ッ、」  ぎょっとして離れようとする能登島を抱き締める。余計に下半身は腫れる。自爆しそうだ。壊れる。 「能登島」  強く能登島こいつを締め上げる。痛みに比例して強く。 「美潮、苦し……っ、」 「俺も苦しい」 「外すか、ら!外すから、離して!」  離れようとする能登島の手が俺の脇腹や腰を押す。触られるだけでまた苦しくなる。また背筋に激痛に似た快感が走り抜けた。能登島の頭と背中を押さえる手が震える。 「…っく、」 「美潮、」 「何も、言うな…ッ」 「今外すから」  俺の腕を擦り抜けて能登島は俺のベルトを外した。ファスナーが降りる。熱くて仕方がない場所が外気に触れた。指の感触がある。手の甲の側面に触れている。締め上げていたものが外れてやっと息ができた。 「美潮ってさ……結構いい匂いするよな…」  目の前が真っ白になった。気付くと能登島はベッドに寝ていた。。俺はそれを見下ろしている。何が起きたのか分からなかった。 「美潮…待って、美潮…」  暴れる腕を掴んだ。見た目より驚くほど細い。でも笛木とかみたいに柔らかそうな感じはなかったが、もっと。棒を握ってるみたいだ。見下ろした顔は痛そうに歪む。力加減を間違えていた。 「能登島」 「美潮…っ!」 「どういうつもりなんだ!」 「やだ、やだやだっ!みし…お、」  鼻先を近付ける。こいつも精一杯抵抗してるみたいだった。能登島が暴れて俺が押さえ込むたびにこいつの匂いがする。頭がくらくらした。止まらなくなる。肌に触りたい。困らせたい。俺のことだけ考えさせたい。シャツをスラックスから引っ張り出す。痩せた腹が浮いたり沈んだりして、その肌は柔らかかった。臍が可愛い。 「みしお…!」 「能登島」  能登島の前も勃っていた。触りたい。どんな声を出す?どんな表情(かお)をする?浅ましい興味が湧いた。こいつのベルトのバックルを外す。脚が俺を嫌がる。 「能登島」 「み、し…お、」 「勃ってるぞ」 「美潮、やだ、!」  新寺か、緋野でもいい。早く来い。俺を止めてくれ。能登島の腰の細さに目から火花が散りそうだった。スラックスと下着を膝まで下げた。 「美潮!」 「俺のだって見ただろ」 「それはゴメ…っ、」 「許さない」  能登島は身体を捻って逃げようとする。細い腰と浮いた骨が手に引っ掛かる。半端に降りたスラックスは能登島を人魚に見せた。相当頭がヤられてる。 「美潮」  俺を呼ぶ声が震える。呼ばれるのが気持ちいい。シーツを掴んで這う手に俺の手を乗せた。色の抜けた前髪が頬を落ち、赤くなっている耳を齧らずにいられなかった。胸の下で能登島の身体も震えている。 「みっ、しお……放し、て…」 「放さない」  もっと困らせるには。もっと俺を見てくれるには。もっと俺を呼ぶには。人魚みたいになっているところから見えた勃起を鷲掴む。 「ぁ…う…」  横や前からではやり方が分からず能登島を後ろから抱いた。鼻先をこいつに埋める。手を動かした。 「汚い、から……っ、あっ、!」 「俺は舐められた」 「…っだ、って……あれは、あッあっ…っ!」  跳ねるような声を聞くたびに結局出せなかった下半身がまた鈍くなる。こいつの尻に押し付ける。 「あっ…みし、お……っだめッ」 「俺は飲まれたんだけど」  足を蹴られる。それでも手を止めなかった。能登島の前は膨らんでいく。俺の手がわずかに濡れている。俺より少し小さい気がした。質感もわずかばかり違う。俺の、もしかして変なのか。 「ごめ、…っあっ、あっあ、!」 「誰かに聞こえるんじゃないか。緋野とか」  大慌てで能登島は自分の口を覆った。それがつまらない。緋野だから?他の人に聞こえるなんてどうでもよくて。 「みし、お……ゴメンっんんっ、んっん…」 「言ったろ。許さないって」  指をしゃぶっている子供みたいで、一歩間違えれば許していた。出したい。もっとこいつに密着した。尻に下腹部を押し込んだ。圧迫感がもたらすわずかな快感を得る。 「だ…め…お尻、挿れんの、やだ……っあッんっ!」  俺は驚いて手を止めてしまった。先端部を親指の腹で抉るように止めたためかこいつはびくびく震えた。どこに何を挿れるのか、何を挿れるかまでは言わなかったが、どこに挿れかまでをこいつは言って、嫌でも何を挿れかまでを分かってしまう。強過ぎる好奇心と欲に負けた。尻までスラックスを下げてしまう。人魚のような格好も良かったが、下半身を露出する姿も、こいつなら、そう抵抗感はない。でもこいつの尻の穴を押してみる。入るのか?俺の不正解か。ここに挿れるのは違うものか。 「や、だ…ァ、奥入っちゃうから、入っ…」  少し硬い部分に触れただけで能登島は騒いだ。 「何が入っちゃうんだ」 「………っオモチャ……あ」  聞いたこともない、いや、こいつに舐められた日に聞いた甘ったるい猫撫で声でこいつは答えた。焦ったようにまた口を塞いでももう遅い。何より、俺を緋野と勘違いしたことに腹が立つ。どういう関係なんだ?どこまで行ってる? 「オモチャ?」  指を入れてしまう。埋まるようにそこは開き指先が沈んだ。 「は…ぁ、う…」  能登島はシーツを掴んでぴくぴく振動した。指もそのリズムで()まれる。熱く柔らかい。奥へ誘われているような気がした。 「ぁ……っみしおぉ…」  能登島を抱き留めそのまま奥へ指を進める。何か本当に入っている。固い。無機物的な固さだった。指先で突いてしまう。 「押さな…っで…っ」 「出せ」 「…っやだ」  能登島はまた俺から離れようとする。離すわけない。 「このまま挿れるぞ」  脅し文句のつもりはなかった。こいつは首を振ってシーツに傷んだ髪がぶつかった。俺の腕の中で身体を縮め、ゆっくり引いた俺の手に例のオモチャが転がった。見覚えのある色は俺に嵌められた器具と同じものだった。少し気を切らしながら俺の腕にこいつが触れる。強く抱き締めた。汗ばんでいる。こいつの匂いが少し濃くなった。もっとこいつに近付きたくて仕方がない。前が張り詰める。このままじゃ永遠に離せない。何でもいい、能登島をもっと、近く感じたい。肉も骨も要らない。ただこいつとひとつになりたい。 「美潮…」 「悪いな」  能登島の細い肩を掴んだ。また俺が上になる。焦った顔が見えた。苦しい下半身を開けて嫌がるこいつの腕を引き止める。無機物が入っていた場所に抵抗され拒絶されながら突き入れた。能登島も激しく暴れた。両腕を掴んで押さえ込む。いくら男でも痩せた身体を押さえるのは簡単だった。こんなことをしているくせにこいつを俺の手で守りたくなる。 「あっ…あぁあアッぅ!」 「能登島…!」  こいつの体内に入っている。視界が滲む。こいつと男女みたいに身体を繋いでいる。初めてがこいつになった。 「能登島、能登島…」 「あぅっ、う…」  はくはく息をして涙ぐんだ目が俺を見上げる。どうするのかはもう本能が知っていた。腰を揺する。能登島は口を開けて上顎が見えた。舐めたい。 「あっあ、あ…っ」  全身を包み込むような柔らかさときつさに数度揺さぶるだけで限界を迎えそうになる。 「能登島…」  シーツに皺を寄せる手を掴んで指を絡めた。上手く交互に入らず中指と薬指の間にだけ2本入ってしまうが直す手間も惜しかった。痩せていても柔らかい掌に俺の手を押し付ける。動いてないのにまた中の俺が膨らむ。 「あ……っあ…あっあ…」 「能登島」  薄いくせに柔らかい頬を撫でる。息が上がる。腰が動いた。強烈な快感が生まれ俺の意思ではもう止められなかった。 「動か…なァッ…あっ、んっんっぁ!」  大きな目は白く照っている。それが白いビー玉みたいで綺麗だった。激しい息切れの中でも見逃したくなかった。強めに突くとビー玉はもっと輝く。戸惑った目と寄った眉に夢中になる。 「みし、ぁっあァっあっァアッ!」 「能登島…俺を見ろ」  怖がる目が俺を見る。手を繋ぎ直した。より密着する。シーツの上で能登島が弾む。俺がこいつを揺さぶってる。 「奥だめ、奥だめ…!そこ変っ、ぁっあっぁぁあ!」  必死な抵抗に俺は腰を止めなきゃならないはずなのに能登島のさらにその奥の姿が見たくなる。興奮と興味と快感が俺の理性も罪悪感も消し去っていく。伏せらた目が潤んで長くはないが濃い睫毛に強く惹かれた。高く上がる声をもっと聞きたい。唾を飲み込めず濡れた唇を塞ごうとこいつの上半身を起こした時、悲鳴と痙攣が起こった。

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