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第60話 キスを、した。
「カズ、お待たせ。何か、良さそうな観光あった?」
俺がチェックアウトをしている間、カズはフロントの棚に並んでいる観光案内のパンフレットを眺めていた。
「あー、水族館か植物園、かな。ナオなら」
「「水族館」」
二人して答えが合致しすぎるハモりっぷりに、お互いを見て、ぷっと吹き出して笑ってしまった。
「じゃあ、水族館ね」
カズがクスクスと笑って、スマホで時間を確認しながら旅館の外へと出る。自動ドアが開くと、その途端に外の蝉の鳴き声が波の音と一緒に聞こえてきた。海で泳いで戻ってきてからはずっと部屋の中だった。夜、花火に一度外へ出たけれど、その時にはずいぶんと涼しくなっていたから、今のこの夏らしい空気に少しだけ面食らってしまう。
「あっつ……ね、ナオ、バス、ちょうどかも」
「あ、うん」
まだ朝なのに、外はもうすでに真夏の暑さが始まっていた。
旅館近くのバス停で数分待ったところで水族館方面へのバスがやってきた。それに乗って三十分。電車とは違うゆらゆらとゆったり揺れるバスの中は観光っぽいファミリーと地元学生が大半だった。
バスを降りるとお盆をすぎてはいたけれど、人はけっこういて、混雑していた。水族館のの正面入り口のところには、イチオシのイルカのショーと綺麗なクラゲが看板になっていた。
中は涼しくて、薄暗くて、俺たちは並んで世界中の魚を眺めてた。
「ナオ、見て、すげぇ綺麗、この魚」
「……うん」
「……こんなんマジで海にいるのかな」
今日は、海に入らなかった。旅館の人が、次の宿泊客のチェックイン時間帯までだったらコインロッカーを貸してくれると言ってくれたけれど、お風呂もサービスで入浴できるらしいけれど、海には入れないんだ。
「あのピンクの綺麗じゃん」
「……うん」
カズの背中には、突き上げられながらイく度に俺が掴まってつけた引っ掻き傷がたくさんあるから。
俺の身体にはイキそうなくらい気持ちイイ場所にカズからキスをたくさんもらった痕が、あっちこっちに赤く付いてるから。
海には入れそうもなくて。
だから観光にした。
「ぁ、あっち側がクラゲだって」
「うん」
朝もした。
朝方までセックスしてたけれど、また朝もしたんだ。
――あっ……ン、ぁ、カズっ。
突き上げられた甘い圧迫感に、自分のあげる喘ぎ声に目が覚めた。
――おはよ、ナオ。
――あぁっン
寝起きを襲われたんだ。
――あ、待っ、ぁあっ!
――ナオのやらしい寝顔に煽られちゃったんだ。
――あぁぁぁっ!
――ナオの中、まだ柔らかくて、俺の、すぐに飲み込んでくれたよ。
うつ伏せで寝ているところに後ろから、そのまま太くて硬いペニスに貫かれて、ズンっと深く奥目掛けて、浅く抜けるギリギリまで引かれて、また奥へ……って、行き来を繰り返す快楽に身悶えて枕にしがみついていた。
気持ち良くて、朝から与えられる快感に大喜びで腰がペニスの動きを手伝うように揺れてしまう。
――やぁぁン
甘イキ、すごいね。そう耳元で囁かれてはまた小さくイって。
――あぁっ
突き上げられる度にシーツに自分のペニスが擦れて気持ち良かった。ちょうど良く押し潰される前立腺に甘く啼いて、朝方まで注がれたカズの熱が激しい動きに、零れて、孔が濡れていやらしい音が止まらない。
すごくすごく卑猥な音。
――あンっ、ぁっン、あぁぁっ、あっ
すごくすごく気持ち良さそうな喘ぎ声。
――ナオん中、すごいよ? 何、これ、やばいっ。
トロトロで、熱くて、気持ちイイ? 俺は。
――カズの、だよ。
この太さに悦ぶ身体。この熱にイかされる身体。
――だから、カズの、もっと中に注い、あっ! あぁぁっ、ン、そこ、イくっ、イく。
覆い被さるカズのペニスが激しく中を擦り上げる。柔らかくほぐれた欲しがりな孔がきゅぅんってカズのペニスに恋しそうに締め付けたら、もう。
――イ、く、から……カズっ
――っ。
息を詰めたカズが抜いてしまう。名残惜しそうに孔がヒクついて、寂しげに身体がカズを欲しがって手を伸ばしたら、その手を掴んで身体をひっくり返された。
――ぁ、カズ、ぁ、あぁぁぁ。
見つめ合いながらの挿入にイってしまいそうだった。甘イキしやすくなるほど一晩中可愛がられた身体は何度でもイきたがる。
――イかないの?
――う、ン、やぁっ……ぁ。
――今、イきそうだったじゃん。中がやらしいよ?
小刻みに中を擦られるとたまらない。
はしたなく脚を開いて、一晩中欲しがって与えられたカズの熱に濡れた音を立てる孔をきゅんきゅんとさせて、でも、イカないように自分の手で、ペニスをぎゅっと握ってた。
――あ、あ、あっ、イく、の……カズとが、いいっ。
欲張りだ。
――イくの、カズが中で、イってるのと、一緒が、い。
欲しがりの欲張りで、みっともないほど、溺れてる。
――カズのせ……え、き……ちょ……だい。
だから必死にお互いを抱き締めてしがみ付いて、まさぐった。
――あぁぁっ、イくっ、イくっ、ぁ、イっちゃうっ!
――ナオっ、もうっ!
欲しくてたまらない相手の中に、肌に、奥深くまで、自分の熱を刻み付けようと、セックスをした。
――あぁぁぁぁぁっ!
「ナオ」
「!」
目の前にはふわりふわりと揺れて漂うクラゲの水槽があった。半透明な薄いピンク色が濃い青色の世界を夢心地に泳いでる。
まるで、真っ青な水の底にいるみたいだ。
「見て、すげぇクラゲ」
「……」
「綺麗じゃね?」
二人で溺れるように。二人で熱に溶けるように。
「……うん。綺麗」
「……ナオ」
「?」
「キス、しよう」
一晩中、愛し合った。
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