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第1話
ツンと冷たい空気が肌を突き刺す。
秋の終わり、冬の始まりの季節。
編入するには季節外れだった。
「神楽坂氷織 君?」
ぼうっと、大きな校舎を眺めていると声がかけられた。
肩掛けを羽織り、息を白くするその人は黒髪の綺麗な人。
とても三十代に見えないこの男性は、これから過ごしていく学園の理事長である。
「話は聞いているよ。ここは寒いから中へ入ろう」
「はい」
中よりも外のほうがいいんだけど。
しぶしぶ頷く少年に年若い理事長は苦笑いした。
神楽坂一族とは、魔法使いの一族である。
実際に魔法を見たことのない理事長だが、そういう一族がいることは知っていた。
数年に一度、魔法使いの一族から学園に入学する者がやってくる。三年間、魔法使いとバレずに学園を卒業すれば、一人前と認められるとかなんとか。
この華奢な少年も、一人前となるためにこの春から入学する予定だった。
本来であれば、編入前に顔合わせも済ませておく手筈だったのだが、ちょっとした問題――氷織の体調不良で編入が冬前になり、理事長のスケジュール関係で初顔合わせが当日になってしまったのだ。
三年間過ごす寮もまだ見ていないし、山ひとつ敷地の学園の地図も把握できていない。迷子になること間違いなかった。
「氷の魔法使いだから、夏が苦手なんでってね」
「……どうしても、暑いのと熱が苦手で、ダメなんです」
黒髪がさらさらと頬を擽る。
ほんのりと赤くなった頬は羞恥からか寒さからかどちらだろう。
「冷暖房はしっかりしているから、建物内は落ち着けると思うよ。ただ、ここ山だからね。夏は暑いよぉ」
僕も暑いのは苦手、と笑った理事長は二十代でも通じそうな容姿だ。
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