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第17話

 風紀委員会委員長・有明結鶴の目下の悩みは冬前にやってきた編入生だ。  風紀室の応接ソファに腰掛け、その膝に頭を乗せて眠っている編入生はあどけない寝顔を晒している。  青白いといっても過言ではない頬をさらさらと黒髪が擽り、顔の半分を覆っている眼鏡はテーブルの上に置かれていた。  野暮ったい見た目からは想像できないすっきりとした目鼻立ちに、けぶる白い睫毛が瞳を縁取っている。  唇はぽってりと赤く色づき、あどけない少女のような色香を感じた。  涙の滲んだ瞳は、透き通った海の蒼さを秘め、平凡とはかけ離れた、美術品のように整った容姿をしていた。 「……はぁ」  短く溜め息を吐き出して、頬にかかった黒髪を払ってやる。  つるりとまろい頬は触り心地が良く、つい指先で突いてしまう。  まさか、泣くなんて思わなかった。それもまるで、泣き方を知らない子供みたいに泣くものだから、年の離れた弟を思い出してしまった。  小学生の弟は人見知りで泣き虫で、来年からこの学園の中等部に通うというのに心配が尽きなかった。  似ても似つかない見た目なのに、しゃくりをあげて、肩を震わせて涙を零す姿に弟が重なって見えたのだ。  規律の鬼と恐れられる風紀委員長の、こんな姿を見られたら驚愕するだろう。  眉を顰めて寝苦しそうな氷織の頭を撫で、ただ時間が過ぎていくのを待った。 「失礼しま、す」 「遅い、柚子原」  八つ当たりである。  鋭い目つきを丸くした柚子原は、氷織に膝枕をする我らが委員長様に言葉を失った。  思わず二度身するくらいには驚愕している。 「え、え、はぁ? え?」 「煩い黙れ。こうなったのも、職務怠慢な君のせいだからな」  キツい口調ながら、しなやかな手つきで黒髪を梳いている。 「状況は聞いているな」 「え、あー……神楽坂のことッスよね。食堂で神逆と接触があったっていう」 「君にこれのことを任せていたはずだけど」 「どうしても、外せない用があって……いえ、言い訳です。申し訳ありません。俺の落ち度です」  腰を二つに折り、頭を下げた柚子原に息を吐いた。 「次からは気をつけて。あと、神楽坂氷織を保護クラスA級からS級まで繰り上げることにした」 「……マジッスか?」 「この容姿なら十分でしょ」  髪を払って、曝け出された素顔に、柚子原は今度こそ言葉を失った。

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