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第16話

「君、馬鹿だろ」  呆れた目を向けてくる風紀委員長に俯いてしまう。 「一人行動は慎むように、と言ったはずだが。柚子原は? なぜ食堂から一人で出た。親衛隊による嫌がらせも受けていると聞いている。そんな中で、あの阿呆な副会長の行動で焚きつけられた親衛隊が動かないはずがない。分かっていたはずだろう」  キツく責める声色に言葉が上手く出てこない。  こんな、怒られるなんて思わなかった。食堂で、先輩風紀委員が頼りにならないと決め付けたのは自分だし、そのあと無理やり食堂を出てきたのも、あの空間に堪えられなかったからだ。  針の筵のように突き刺さる視線。悪意や嫌悪が凝り固まった感情。  無関心でいたいのに、ジクジクと心が痛むんだ。  より強く、素晴らしい氷の魔法のために、自分自身を氷らせ、感情を鋭く冷たく凍て付かせなければいけないのに。  未熟な俺は感情の波に囚われて、振り回されている。 「あ、あれ、」  ぽろ、と涙が溢れ出た。  パンクしそうな頭に抑えきれない感情が渦巻いて、脳みそが混乱している。 「ご、ごめんなさいっ、すぐ、止めるんで」  溢れる涙を止められなくて、俯けば眼鏡にボタボタと水滴が落ちた。  羞恥と混乱で、顔が赤くなる。眼鏡を取って、カーディガンの袖で目元を強く拭った。  悲しいなんて思わないのに、苦しいなんて感じないのに、この涙は何を意味して溢れ出ているのだろう。  魔法使いの正体を隠して、見知った友人も居らずたったひとりで学園にやってきて、ストレスが積もらないはずがなかった。  一人前の魔法使いとして認められるための踏み台であると割り切っていても、心のどこかで辛い気持ちに苛まれていた。  わけのわからない生徒に絡まれて、周囲からは針のような視線を向けられて、感情は心から溢れてしまう寸前だった。 「お、おれっ……! ごめんなさ、」 「――もういい、謝るな。僕が悪かった」  透き通った清流のようなその人に、抱きしめられる。腕の中に閉じ込められて、ぎゅっと強く胸に押し付けられる。 「すまない。そうだよな、学園に編入してきたばかりで、親衛隊がどんな集まりかも知らないのに、強く言い過ぎた」  堅物で、規律の鬼と言われる風紀委員長に抱きしめられている現状に、大きく瞳を瞬かせた。けぶる睫毛から涙が零れる。  氷織を抱きしめたまま、言葉を紡ぐ。 「ふわふわと自由気ままで、悪意に晒されているのを見ると、君の、行動を見ていると心配になるんだ」  驚きに気づけば涙は止まっていた。  親しい友人も、何も要らないと思っていた気持ちが揺らいでしまう。また、じわりと涙が滲んできた。 「――おれ、どうすればいいんだろ」  ぎゅう、と抱きしめられると同時に、心が強く締め付けられた。

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