風紀委員対副会長が巻き起こる一画を、遠巻きに野次馬される図が完成した。 　一早くここから抜け出すにはどうしたら良いだろう。やっぱり、愛優を氷漬けにするのが手っ取り早い気がしてきた。 「なぁなぁ、今日こそ生徒会室行こうぜ？　校舎の一番高いところにあって、めっちゃ見晴らしがいいんだ！　夜なんて星空も綺麗に見えて最高なんだ」 　耳元でくっちゃべる声を聞き流しながら、頭を働かせる。 　いや、氷漬けにしたら明らかにただの人間じゃないとバレてしまうから却下だ。 　こういうとき、柚子原がいれば強引にでも連れて行ってくれるのに。こんなときに限っていないなんて使えない奴だ。 　風紀委員の先輩たちは困った雰囲気だ。どうするべきか、とまごついている。便りにはならないだろう。 　愛優の言葉なんてほとんど聞き流していた。 　だから場面展開についていけなかったと言い訳をしたい。 「……はぁ、わかったよ。愛優がそこまで言うなら仕方ないね」 「ケイト！」 　ぱぁっと天使のご尊顔を煌かせた愛優に、打って変わって花が咲くような笑みを浮かべた副会長に嫌な予感がする。 「――いいよ、生徒会室へ招待しよう」 　その後の食堂はと言えば阿鼻叫喚、悲鳴の嵐だった。 　◇　◇　◇ 　なんとか強引に話を切り上げて阿鼻叫喚地獄の食堂を脱した氷織に第二の試練が待ち受けていた。 「初めまして、神楽坂君」 　部屋まであと少しのところで立ちふさがったのは、お人形のように綺麗な先輩だった。 　後ろに控えたふたりの先輩も整った顔立ちをしている。否、学園の入学試験に「容姿の良さ」があるかの如く、顔の整った生徒たちが多いのだった。 「……はじめ、まして」 　軽く会釈をすれば、先輩はにっこりと笑みを深めた。 「僕は生徒会副会長親衛隊の隊長をしている貴城。あ、名前は名乗るつもりがないからね」 　食堂での副会長との接触で、ついに親衛隊が動き出したのだ。 　手のひらを強く握り締め、いざというときに備えて退路を確認する。後ろのふたりはキツく氷織を睨みつけるだけで、行動に移る様子はない。 「以後お見知りおきを」と柔らかく、綺麗な笑みのはずなのに、目は捕食者のように鋭く尖っていた。