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第14話

 にわかに、出入り口付近が騒がしくなる。  無意識のうちの眉を顰めていた。  目を向けなくてもわかる。愛優とその金魚のフンご一行だ。 「神楽坂君、探されてるみたいだぜ」 「壁……盾になってください」  できるかぎり身体を縮めて、姿勢を低くする。  愛優はそれほど身長が高くないから、埋もれてしまえば見つかる心配もなかった。  問題児に絡まれる可哀想な一般生徒、と風紀委員会では認識されている氷織を守るように、見ず知らずの風紀委員たちは氷織に言われずとも盾の役割を果たしてくれた。  目くらましの魔法や、存在希薄魔法が使えたらよかったのだが、氷織の魔法は攻撃特化型だ。  冷たく、凍て付き全てを氷らせる氷雪魔法。魔力の質も量も特級クラス。膨大すぎる魔力のコントロールには氷織も常日頃から悩まされていた。  指先から霜が降りそうになるのをぐっと堪え、感情を押さえ込む。  感情の暴走は魔力の暴走だ。平静を保て、波立たせることなく、静寂を纏う水面であれ――そう教え込まれた。 「氷織! 見つけた!」  満面の笑みを浮かべた愛優に視界がぶれる。  ぎゅう、と横から飛びかかられ、細腕で首が絞まった。 「まったく、私の手を煩わせるなんていい度胸してるじゃないか」  フン、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた麗しい儚い青年に周囲が感嘆の息を漏らす。同時に、氷織に厳しい目線が集まった。  淡い金茶髪に深い藍色の瞳。儚い見た目とは裏腹に、性格は難有り。生徒会副会長の登場に、周りを固めてくれていた風紀委員はたじろいだ。  ただの風紀委員と、生徒会副会長じゃあただの委員には分が悪かった。 「愛優が探していると知りながら、なぜすぐに出てこなかった。……そんな小賢しい真似をして、愛優の気を引けるとでも思ったのか?」  何を勘違いしているのか、愛優の取り巻きたちは氷織が愛優に懸想していると思っているのだ。  微塵もそんなことはない。決して、一ミリもない。 「わぁ、探していたなんて気づかなかった」  わざとらしいふわふわした口調に、副会長のこめかみが引き攣る。  風紀委員からは笑いが噴き出した。  抱きついたまま、ソプラノリコーダーの声で喋られて耳がキンキンする。 「タイミングが合わなかったのか、最近全然氷織に会えなくって寂しかったんだ」  タイミングが合わなかったというより、合わせなかったが正しい。  キスでもしてきそうな距離感にメンタルがゴリゴリと削れていく。

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