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第二章 息【じゃあさ、優希。こうやって、大きく息を吐いて】

   ぱちり、と眼が開いた。  いい目覚めだ。  眼を開くと同時に、意識もクリアに澄みきっている。  枕元の目覚まし時計の時刻は、アラームが鳴るより30分も早い。  けれど要人はベッドサイドのスイッチを操作し、天窓のブラインドを開けた。  朝の光が、体いっぱいに注がれる。  その中で、両腕を光に向かってぐいと突き出した。  何度かこぶしを、閉じたり開いたり。  そして、こみ上げてくる笑顔をほころばせた。  昨日カフェで起きた、この一年で一番素敵な出来事を思い出し反芻する。  優希が、この手に触れてくれた。  友達を越えた絆で結ばれたいと、告白した。  いわゆる、恋人になって欲しい、と。  彼の前に両手を差し出し、『もしOKなら、この手に触れて』と思いきって言ってみた。    そして、優希の手はこの手のひらの上に重ねられた。  微笑みが、満面の笑みに変わってゆく。

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