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第一章・8

 昨日と同じ時刻、同じ場所に優希を見つけて、要人はひとまず安心した。  返事どころか、最悪その場に来てくれないかもしれない、とも考えていたのだ。  逃げられるより、ずっとよかった。  たとえ、色よい返事が聞けないにしても。 「昨日の返事、だけど」  要人がそう切り出すと、どきり、と優希の肩が震えた。  ごめん、優希。    きっと昨日は眠れなかったに違いない。  俺の言葉で心が乱れて、頭がいっぱいだったに違いない。  そして、優希の唇が動いた。 「要人、僕は」  待って、と要人は優希の言葉を遮った。 「言葉で聞くのが、怖い。これまで散々、言葉で別れを告げられてきたから」  そして、要人は両手を前に差し出した。 「もしOKなら、この手に触れて」  NOの場合はどうするか、を言わない要人。  ずるい。  ずるいぞ、要人。  それでも、魅入られたように腕が上がってゆく。  伸ばした要人の手に向けて、優希の手が伸びてゆく。  このままこの手を払って、立ち去っても良し。  この手に触れて、握りしめても良し。  ギリギリまで、迷って震えて伸びてゆく優希の手。  ふと、顔を上げた。  要人の髭は、もうきれいに整うまで伸びていた。

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