64 / 127
第五章・13
「これから訪ねてもいいか、なんて。優希、どうしちゃったんだろう」
寝ぼけ眼は、電話の相手が優希だと解かった瞬間にバッチリ覚醒した。
ロボット掃除機に部屋をきれいにしてもらいながら、要人は手早く軽食の準備をしていた。
夜に、いきなり会いたい、なんて。
ちょっと艶っぽい気もするけど。
「でも優希のことだから、そんな不純な動機じゃないよな、きっと」
おそらく、さっき手に入れた本の中に素晴らしいものがあって、その事について語りたい。そんなところだろう。
不純な動機、か。
やっぱり、優希と愛し合いたい。身も心も一つになりたい、と思うのは汚れた考えなんだろうか。
ひとりでに真顔になってしまった要人は、両掌で頬をぱちんと叩いた。
どちらにせよ、優希がこうして訪ねてくれるのは嬉しい出来事なんだ。曇った顔なんかしちゃいられないんだ。
オーブンレンジのアラームが鳴る音に重なって、玄関のベルチャイムが響いた。
ともだちにシェアしよう!