68 / 127
第五章・17
いつもとは逆に、自分が優希にどぎまぎさせられている。
そんな気持ちに勘付かれないよう、要人は平静を装って優希にぐいと顔を近づけた。
「負けると解ってる勝負を挑むのか?」
「君が勝ったら、この本をあげるよ」
は、と要人は目を丸くした。
優希が出したのは、今日買い損ねたあの本だったのだ。
思わず、苦笑いがこぼれる。
そんな要人に、優希が酔った眼差しを向けてくる。
「要人、忘れてたろう? この本は、小さい時に一緒に読んだよ」
「何もかも、お見通しなんだなぁ。解かった。受けて立とう!」
二人は顔を近づけて、プレッツェルの両端を咥えた。
互いに、少しアルコールの匂いを感じていた。
ともだちにシェアしよう!