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第七章・13
「優希、さっそくマーキングされてるなぁ」
「変なこと言うなよ。お腹がすいてるんだ、きっと」
そこへ唐突に、いらっしゃい、との声が掛けられた。
見るとそこには、年老いて小さく縮んでしまった老婆が立っていた。
もう3月も末だというのに、毛糸で編んだもこもこのセーターやカーディガンでやたら着膨れしている。
しかし、にこやかな笑顔に加えて、腕にはサバトラの猫を大切そうに抱いている。
優しくその毛をなでる手には慈しみ深さが溢れており、心から猫を愛しているようだ。
驚かされたが悪者には見えないその風貌に、要人と優希は、ほっとした。
「えっと。店長さんですか? ちょっと休ませて欲しいんですけど」
「どうぞどうぞ。アタシは店長さんじゃあなくって、留守番さんですけどね。お客さんは大歓迎ですよ」
店内は外見とは違い、打って変わってオシャレな雰囲気だ。
シンプルで無駄のない、モダンなソファやテーブルがいくつか据えられている。
そのひとつに、要人と優希は落ち着いた。
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