1 / 3

天然くん×溺愛男子…⁈ 1

 俺は今、(いつき)の部屋のベッドにいる。  あいつがぶちまけた生クリームを風呂場で洗い流し、体も綺麗にした状態で膝の上で拳を作りながら座っている。  恥ずかしいのでカーテンはビッチリ閉めておいたけど、それでも完全な闇を作り出すことは不可能だった。なんせ今は夕方の五時前だからな。   『あの、ケーキはいらないから、その代わりに』 『……代わりに?』 『……くそ、絶対分かってるくせに言わせようとしてんじゃねぇぞ……!』  俺はあの後、逡巡した後に言ってしまったのだ。 『──樹が、欲しいんだ』  唇を噛んで目を見開いた樹は、ふと視線をそらしてから一言呟いた。 『……いいけど』  けどってなんだ、けどって。  そんな風に茶化す余裕はなかった。  頰を赤らめる樹が可愛くて尊くて、思わず股間がギュンと反応してその場で押し倒したい衝動をなんとか堪えて「そうか、じゃあ、とりまシャワーを浴びよう」なんてすまし顔を作って演技するので精一杯で。  とにかく、脳内がねぶた祭り状態になっていたので、正直さっきまでの記憶が曖昧だ。気付いたらここに来ていたような心境。  俺はついに、ヤる。  樹とキスして、体を繋げるんだ。  付き合ってからずっと、誕生日までにはキスぐらいはしたいな…と淡い望みを持っていたが、それがついに実現する。しかもセックス付き。  これ以上ないバースデープレゼントだ。  はっとして、通学バックの中に手を突っ込んでゴソゴソ漁る。  この瞬間に備えてお守りのようにいつも持ち歩いていたコンドーム。それをこっそりとベッドのすぐ横にあるカラーボックスの上にちょんと置いた。  大丈夫。何度もシミュレーションしたんだ。  樹はきっと、こういう経験はない。  樹は、っていうか俺もないけど。  だから人一倍、エロに関して調べ上げてきたんだ。動画や漫画、ありとあらゆる方法で。  怖がる樹に「大丈夫だ、怖くないぞ」って優しく言ってリードして、最高の初体験を樹にプレゼントする。  まずは甘いキスを樹に仕掛けて、自然な感じでこのベッドに横たわらせて服を脱がせる。震えているようだったらぎゅっと抱きしめてあげてもいい。  その後は……本番の流れに身を任せよう。  樹の反応を見て、どこがどう感じるのか、しっかり見極めなくては。  樹の快楽に悶える表情を想像しただけで、早くも体の中心に血が集まり出した。  俺はたまらず、あぁぁーと沸騰した顔を両手で覆って、足をバタバタさせる。  たまらないぜ。  勿体ないからあまり妄想しすぎないようにしよう。  そんな時、廊下から足音が聞こえてきたので俺は姿勢を正した。  風呂から上がった樹が部屋に入ってきた。 「何してたの璃都(りと)」 「ん、別に何も」 「床、バンバン蹴ってなかった?」 「空耳だろ」  そっかー、と樹は笑いながら、俺の隣にストンと腰を下ろした。  バクバクと心臓が鼓動する。  隣の樹からいい匂いがしてくる。  バスルームの棚に定規で測ったみたいに一定の間隔を開けて置いてあったシャンプーやボディーソープは見た事のない銘柄だった。さすが金持ちの家。俺もいま樹と同じ肌触りと髪質をしているのだと思うとたまらない。  樹はヘラっとしながら濡れた頭をタオルで拭いている。  まるで緊張感がない。こいつは本当にこれから何をするのか理解してるんだろうか。この天然野郎は未知すぎる。やはりここはお世話係の俺がきちんとリードしないと。 「樹、俺さ、こういう事初めてで」 「……うん」  樹はパサっと持っていたタオルを置き、視線を落としたまま動かなくなってしまった。  お、さすがに分かってるか。良かった。 「だけど俺、ずっとこの時を夢見てきたんだ。お前も初めてだろ? うまく出来ないかもしれないけど……優しくするから、俺の気持ち、どうか受け取ってほしい」 「……分かった」  こっちを向いた樹は、こくんと頷いた。  樹の目を見たら、理性がぶっ飛びそうになった。  その唇に、激しくむしゃぶりつきたい。  いやだめだ、樹を怖がらせちゃいけない。  ここは優しく、たおやかに、ゆっくりと押し倒して……  ドサッ 「ちゃんと、受け取ってあげるね、璃都の気持ち」  柔らかく笑んだ樹を見上げた俺は、ん、と一旦思考が停止する。  あれ、なんで俺が組み敷かれてるんだ?

ともだちにシェアしよう!