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第6話

「馬鹿野郎!」  俺はユリウスの胸倉をつかむと、感情のままに口を開いた。 「俺がテルディオから帰されて、この1年間……何を考えてたか、わかるか!? 全部、お前のことだよ! 毎日毎日、嫌になるくらいお前のことばっか考えて……! もう会えないってわかってるのに、それでも会いたくて仕方なくて……!」  忘れようとして、感情を押し殺して――でも、それができなくて。  「悲しみ」を通り越した虚無感 がずっと俺の心を支配していた。  日本で過ごした空虚な1年間のことを思い出し、目の前がかすんでいく。涙で濡れる目で、俺はユリウスを見据えた。 「俺だって会いたかった! 会えて、死ぬほど嬉しいんだよ! お前のことが好きだからな!」 「伸太郎……」  ユリウスが俺の手を優しく包みこむ。そして、空色の双眸を潤ませた。 「君にまた会えてよかった。――愛してる」 「俺の方がお前のこと好きだ。愛してる」  今度は素直に告げることができた。  ユリウスは手早く自分の服を脱ぐと、俺の尻に剛直を押し当てる。 「伸太郎が欲しい。君と1つになりたい」 「ああ。俺だってお前のことが欲しい。いいぜ……来いよ」  誘うように脚を開く。  先端が後孔にあてがわれ、ぐぐ、と中へと入ってくる。その圧迫感に息もできなくなった。苦しく思ったのは一瞬。すぐに中いっぱいに広がる熱が、きゅんきゅんと快感を生み出していく。 「ん……♡ あ、♡」  妙な声が唇から零れるのを止められない。  奥まで挿入されて、 「あっ……あぁ、ん……っっ♡」  全身の血が沸き立って、目の前が白くなる。  涙をにじませ喘ぐ俺の手を、ユリウスが握った。 「伸太郎……好きだ」 「あ♡ 俺も……! お前のこと、好きっ♡」 「愛してる」 「んっ♡ 俺も、すき♡ 好き♡」  肉棒が出し入れされる度に、頭がぐわんと揺さぶれるほどの快感が駆けめぐって――真っ白になって、わけがわからなくなって。  俺はうわ言のように何度も、その言葉をくり返した。 「ユリウス……好き♡ もう俺のそばから離れるんじゃ、ねえぞ……っ♡」 「当たり前だ。もう二度と離れない」  お互いの熱が交わり合って、溶け出しそうなほどに高まって――  視線を絡め合いながら、思いの丈をぶつけ合う。  頭がおかしくなるほどの快感に、俺の思考はぐちゃぐちゃにとろけていった。  ◇ 「全部、忘れたい……」  明くる日の朝。俺はベッドに埋もれ、呻いていた。  見事に体が動かない。すっかり抱きつぶされてしまって、体中が倦怠感に苛まれていた。  いや、体はまだいい。問題は心の方だ。昨晩のことを思い出しては悶えるということを、俺は目覚めた時からエンドレスにくり返していた。  昨日の自分の言動を思い返しただけで死ねる。何であんなに「好き」とか言ってしまったのだろう……。 「昨日の伸太郎はとてもかわいかった」 「言うな、忘れてくれ!!」  涼しい顔で告げるユリウスに怒鳴り返してから。俺はハッとした。  いや、待てよ――。  昨日の俺はどう考えてもおかしかった。ユリウスのことしか目に映らなくなって、それしか考えられなくなって、何度も何度も「好き」と口走ってしまうなんて。いつもの俺ではない!  これはつまり。 「おい、ユリウス! てめー、変なスキル使ったろ!? どうせ、『魅了』系のスキルとかも持ってやがるんだろう!?」 「いや……俺はそういう類のスキルは所持していないが」 「嘘つけよ! 俺は、お前が持つ全スキルの開示を要求する!」 「ああ。構わない。ステータス画面を見るか?」  そう言って、ユリウスはスマホを操作する。  ステータス画面とはWEB小説の転生ものではお決まりのあれだ。自分の能力値とスキルを文字で確認できるという、便利システム。ステータス画面ってスマホで出せるのか。そういうところは日本風なんだな。  スマホにはゲーム画面のような体裁でユリウスのステータスと所有スキルが表示されていた。  ずらりと大量のスキル名が並んでいる。所有スキル多すぎだろ。とんでもねえチート野郎め。  しかし、どれだけ探しても、『魅了』系のスキルはなかった。「相手をメロメロにする」とか「ガチ惚れさせる」とかそういう類のスキルだ。  これは、その……つまり?  最中に俺がこいつに「好き好き」言ってたのは、別にスキルの効果というわけではなくて……? 「伸太郎は本当にかわいいな。テルディオにいた頃から、昼間の時と夜のギャップがすごくて――」 「うわー!」  俺は錯乱状態で、ユリウスに枕を投げつけた。  あ……何か今、思い出したわ。  テルディオでこいつと初夜を迎えた日の朝も、俺はこんな風にユリウスに枕を投げつけたのだった。  ◇  かんかんと階段を登っていく俺の足音は弾んでいた。  何て言ったって今日は金曜日。しかも、珍しく残業がなく、早帰りすることができた。  そして、俺が浮かれているのは、それだけが理由ではなく―― 「おかえり、伸太郎」  玄関の扉を開ければ、ユリウスが俺を迎えてくれる。さすがにこいつも高校生だし、家族に心配されるだろうから、毎日ここに来るってわけにもいかないが……金曜の夜だけは特別だ。両親には「友人宅に泊まる」と言い訳して、家に来ているらしい。  ユリウスは制服の上にエプロンを着けていた。前髪をピンで止めていて、かわいい。幼妻感が半端ない。犯罪臭がしないでもないが、こいつと俺は元は同い年だからな。セーフということにしておこう。  台所からはカレーのいい匂いが漂ってくる。こいつが作るカレーはスパイスも自分で調合していて、めちゃくちゃに美味い。  日本に転生したユリウスは、料理の腕をとんでもなく上げていた。テルディオにいた頃は、焼き魚さえ炭に変えるほどの、致命的な料理オンチだったのに。 「そういや、お前、料理の腕をずいぶんと上げたな」 「伸太郎の役に立ちたいと思って、練習したんだ」  鍋の中身をかき回しながら、ユリウスはさらりと告げる。  俺は静かに感激していた。こいつは本当に……健気で一途だ。 「その……ありがとな」  俺は頬を引っかきながら、口を開いた。照れのあまりぶっきらぼうな口調になってしまっているが、それでもこれだけは告げておかなければならない。 「お前が日本まで追いかけてきてくれるとは思わなかった。……きちんと言えなかったけど、感謝してる。すげー嬉しいよ」  ユリウスが振り返って、目をぱちくりさせる。それから穏やかに笑った。 「……俺が願ったんだ。伸太郎に会いたいと。伸太郎のいない世界で生きるくらいなら、一度、死んで、生まれ変わった方がいいって」  と、そんなことをまっすぐ言うものだから。俺は不覚にも目頭が熱くなってしまう。  胸に沸き起こった衝動のまま、俺はユリウスに抱き着いた。 「俺は幸せ者だな。こんなかわいい年下の嫁さんもらっちまって」 「俺が嫁さんなのか?」 「そーだろ? 健気で料理上手でかわいい、俺の自慢の嫁さんだよ」  「何だそれは」と言いながら、ユリウスは笑う。  こうして異世界から日本に戻ってきちまったけど、今の俺は幸せだ。  何せ俺の嫁は、チート能力持ちの元・勇者様なんだから、な。 『異世界から帰った俺の嫁は勇者です』終

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