6 / 6
第6話
「馬鹿野郎!」
俺はユリウスの胸倉をつかむと、感情のままに口を開いた。
「俺がテルディオから帰されて、この1年間……何を考えてたか、わかるか!? 全部、お前のことだよ! 毎日毎日、嫌になるくらいお前のことばっか考えて……! もう会えないってわかってるのに、それでも会いたくて仕方なくて……!」
忘れようとして、感情を押し殺して――でも、それができなくて。
「悲しみ」を通り越した虚無感
がずっと俺の心を支配していた。
日本で過ごした空虚な1年間のことを思い出し、目の前がかすんでいく。涙で濡れる目で、俺はユリウスを見据えた。
「俺だって会いたかった! 会えて、死ぬほど嬉しいんだよ! お前のことが好きだからな!」
「伸太郎……」
ユリウスが俺の手を優しく包みこむ。そして、空色の双眸を潤ませた。
「君にまた会えてよかった。――愛してる」
「俺の方がお前のこと好きだ。愛してる」
今度は素直に告げることができた。
ユリウスは手早く自分の服を脱ぐと、俺の尻に剛直を押し当てる。
「伸太郎が欲しい。君と1つになりたい」
「ああ。俺だってお前のことが欲しい。いいぜ……来いよ」
誘うように脚を開く。
先端が後孔にあてがわれ、ぐぐ、と中へと入ってくる。その圧迫感に息もできなくなった。苦しく思ったのは一瞬。すぐに中いっぱいに広がる熱が、きゅんきゅんと快感を生み出していく。
「ん……♡ あ、♡」
妙な声が唇から零れるのを止められない。
奥まで挿入されて、
「あっ……あぁ、ん……っっ♡」
全身の血が沸き立って、目の前が白くなる。
涙をにじませ喘ぐ俺の手を、ユリウスが握った。
「伸太郎……好きだ」
「あ♡ 俺も……! お前のこと、好きっ♡」
「愛してる」
「んっ♡ 俺も、すき♡ 好き♡」
肉棒が出し入れされる度に、頭がぐわんと揺さぶれるほどの快感が駆けめぐって――真っ白になって、わけがわからなくなって。
俺はうわ言のように何度も、その言葉をくり返した。
「ユリウス……好き♡ もう俺のそばから離れるんじゃ、ねえぞ……っ♡」
「当たり前だ。もう二度と離れない」
お互いの熱が交わり合って、溶け出しそうなほどに高まって――
視線を絡め合いながら、思いの丈をぶつけ合う。
頭がおかしくなるほどの快感に、俺の思考はぐちゃぐちゃにとろけていった。
◇
「全部、忘れたい……」
明くる日の朝。俺はベッドに埋もれ、呻いていた。
見事に体が動かない。すっかり抱きつぶされてしまって、体中が倦怠感に苛まれていた。
いや、体はまだいい。問題は心の方だ。昨晩のことを思い出しては悶えるということを、俺は目覚めた時からエンドレスにくり返していた。
昨日の自分の言動を思い返しただけで死ねる。何であんなに「好き」とか言ってしまったのだろう……。
「昨日の伸太郎はとてもかわいかった」
「言うな、忘れてくれ!!」
涼しい顔で告げるユリウスに怒鳴り返してから。俺はハッとした。
いや、待てよ――。
昨日の俺はどう考えてもおかしかった。ユリウスのことしか目に映らなくなって、それしか考えられなくなって、何度も何度も「好き」と口走ってしまうなんて。いつもの俺ではない!
これはつまり。
「おい、ユリウス! てめー、変なスキル使ったろ!? どうせ、『魅了』系のスキルとかも持ってやがるんだろう!?」
「いや……俺はそういう類のスキルは所持していないが」
「嘘つけよ! 俺は、お前が持つ全スキルの開示を要求する!」
「ああ。構わない。ステータス画面を見るか?」
そう言って、ユリウスはスマホを操作する。
ステータス画面とはWEB小説の転生ものではお決まりのあれだ。自分の能力値とスキルを文字で確認できるという、便利システム。ステータス画面ってスマホで出せるのか。そういうところは日本風なんだな。
スマホにはゲーム画面のような体裁でユリウスのステータスと所有スキルが表示されていた。
ずらりと大量のスキル名が並んでいる。所有スキル多すぎだろ。とんでもねえチート野郎め。
しかし、どれだけ探しても、『魅了』系のスキルはなかった。「相手をメロメロにする」とか「ガチ惚れさせる」とかそういう類のスキルだ。
これは、その……つまり?
最中に俺がこいつに「好き好き」言ってたのは、別にスキルの効果というわけではなくて……?
「伸太郎は本当にかわいいな。テルディオにいた頃から、昼間の時と夜のギャップがすごくて――」
「うわー!」
俺は錯乱状態で、ユリウスに枕を投げつけた。
あ……何か今、思い出したわ。
テルディオでこいつと初夜を迎えた日の朝も、俺はこんな風にユリウスに枕を投げつけたのだった。
◇
かんかんと階段を登っていく俺の足音は弾んでいた。
何て言ったって今日は金曜日。しかも、珍しく残業がなく、早帰りすることができた。
そして、俺が浮かれているのは、それだけが理由ではなく――
「おかえり、伸太郎」
玄関の扉を開ければ、ユリウスが俺を迎えてくれる。さすがにこいつも高校生だし、家族に心配されるだろうから、毎日ここに来るってわけにもいかないが……金曜の夜だけは特別だ。両親には「友人宅に泊まる」と言い訳して、家に来ているらしい。
ユリウスは制服の上にエプロンを着けていた。前髪をピンで止めていて、かわいい。幼妻感が半端ない。犯罪臭がしないでもないが、こいつと俺は元は同い年だからな。セーフということにしておこう。
台所からはカレーのいい匂いが漂ってくる。こいつが作るカレーはスパイスも自分で調合していて、めちゃくちゃに美味い。
日本に転生したユリウスは、料理の腕をとんでもなく上げていた。テルディオにいた頃は、焼き魚さえ炭に変えるほどの、致命的な料理オンチだったのに。
「そういや、お前、料理の腕をずいぶんと上げたな」
「伸太郎の役に立ちたいと思って、練習したんだ」
鍋の中身をかき回しながら、ユリウスはさらりと告げる。
俺は静かに感激していた。こいつは本当に……健気で一途だ。
「その……ありがとな」
俺は頬を引っかきながら、口を開いた。照れのあまりぶっきらぼうな口調になってしまっているが、それでもこれだけは告げておかなければならない。
「お前が日本まで追いかけてきてくれるとは思わなかった。……きちんと言えなかったけど、感謝してる。すげー嬉しいよ」
ユリウスが振り返って、目をぱちくりさせる。それから穏やかに笑った。
「……俺が願ったんだ。伸太郎に会いたいと。伸太郎のいない世界で生きるくらいなら、一度、死んで、生まれ変わった方がいいって」
と、そんなことをまっすぐ言うものだから。俺は不覚にも目頭が熱くなってしまう。
胸に沸き起こった衝動のまま、俺はユリウスに抱き着いた。
「俺は幸せ者だな。こんなかわいい年下の嫁さんもらっちまって」
「俺が嫁さんなのか?」
「そーだろ? 健気で料理上手でかわいい、俺の自慢の嫁さんだよ」
「何だそれは」と言いながら、ユリウスは笑う。
こうして異世界から日本に戻ってきちまったけど、今の俺は幸せだ。
何せ俺の嫁は、チート能力持ちの元・勇者様なんだから、な。
『異世界から帰った俺の嫁は勇者です』終
ともだちにシェアしよう!