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第1話 DKとインキュバス・2

 ……もう毎日が散々だ。どうして俺だけがこんな目に遭うのだろう。デカい男子校だしもっと可愛くて女っぽい奴だって大勢いるのに、どうして皆、大して目立ったこともしていない俺に執着するんだろう。  もちろん、全員がそうという訳ではない。上級生の中には他校の女子と付き合っている奴もいるし、追い回される俺を見て哀れに思ってくれている人もいる。気さくに話しかけてくれる人も多く、実際に襲われかけていた俺を助けてくれた人達もいた。  さっきの鬼堂天和を含め、一部の頭のおかしい連中が騒いでいるだけなのだが、こうも毎日追い回されると精神的にもかなり参る。名前もよく知らない奴らに貞操を狙われるなんて、こんなの親にも教師にも相談できない。  だけど例え毎日追われようと何人来ようと、絶対に俺は俺を守ると決めている。  何故かといえば── 「大丈夫? 汗だくだよ、これどうぞ」 「あ、……」  綺麗な指、綺麗な手。綺麗なハンカチ。二年の校舎へ戻るため中庭を歩いていた俺は、頬を赤くさせて正面に立つ彼を見上げた。 「い、いえ。大丈夫です。すみません、気を遣わせてしまって」 「人気者は大変だね。何か困ったことがあったらいつでも相談してね」 「あ、あ、ありがとうございます……」  柔らかい髪、柔らかい声。柔らかい笑顔を向けてくれているのは去年の生徒会長だった、彰良(あきら)先輩だ。俺の憧れ。成績優秀で誰にでも優しい彼は、不良の多いこの学校では最後の良心とさえ言われていた。  彰良先輩は遠慮する俺を見てくすくすと笑い、「授業、遅れたら駄目だよ」と残して三年校舎の方へ歩いて行った。 「………」  男の魅力は強さでなく、優しさ。それを教えてくれたのは彰良先輩だった。  強さとは腕力のことではなく、心のこと。臆することなく不良連中にも話しかけていける彰良先輩は本当に生徒会長に相応しい人間だったなと思う。人を平等に見て誰の悩みでも聞いてあげていたし、学校への要望や意見はどんなに些細なことでもきちんと教師に持っていってくれていた。  背が高く眉目秀麗で、頭も良くて優しくて、おまけに超有名企業の社長息子。ただ生真面目という訳ではなく、ちゃんと友人達と放課後のゲームセンターやラーメン屋などの寄り道なんかもしている。  この学校でただ一人、俺が尊敬している人。それが彰良先輩だった。

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