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第1話 DKとインキュバス・4
「なっ、なになにっ、何だよ! 勝手に入ってくんな、っていうか仕事どうしたんだよっ?」
慌てて下半身をズボンで隠し、勢いに任せて怒鳴り散らす。母さんは無表情で俺を見ていたが、やがて唇をニッと緩め、「大丈夫よ」と意味不明なことを言いながら──そのまま部屋の中へ入ってきた。
「恥ずかしいことじゃないわ、炎樽。お母さんが教えてあげる」
「は、はぁっ?」
「さあ、そこに寝てちょうだい。寝てるだけでいいの、お母さんが気持ち良くしてあげるから。実の親子だもの、恥ずかしがらなくていいのよ」
「………」
頭がおかしくなったのだろうか。いや、違う。これは……
「あんた、母さんじゃねえだろ」
「へっ? な、何言ってるの、私は──」
「そっくりだけど違う。明らかに違う」
「え、そんな……えっ、まさか、やだ……違うわよ、私はあなたの……」
母さんの顔をした「そいつ」が動揺し始めたのを見抜き、俺はトドメの言葉をぶつけてやった。
「俺の母さんは間違っても息子に手出しなんかしねえ。なぜなら母さんは……『女しか愛せない』からな!」
「な、何だとっ……?」
体外受精でシングルマザーとなった母さんにはちゃんと同性のパートナーがいる。俺は母さんと、そのパートナー女性の父親の精子から生まれた。だから俺には母さんが二人いる訳だけど、そのどちらとも血の繋がりがあることになる。子供の頃は不思議で仕方なかったが、ある意味その母さん達のお陰で、俺自身が男に興味を持つことに罪悪感を抱かなくなったとも言えるだろう。
男よりも漢らしく、優しくて心の強い母さんは俺の誇りだ。時々うっとうしいくらい絡んでくることはあっても、息子に性の手ほどきをするような人じゃない。
「クソッ、一瞬でバレるとは……」
「誰だあんた。住居不法侵入だぞ」
「……仕方ない。『正規ルート』で挑むしかないか」
すると突然、母さんの姿をしたそいつの体を黒いモヤのようなものが覆い始めた。何かを燃やした時に出る煙のようだ。吸い込んではいけないと瞬間的に察知し、咄嗟に下半身を隠していたズボンを口と鼻にあてる。
「な、何だよっ? どうなってんだ!」
ぐるぐるととぐろを巻いた煙が晴れたその時、俺の視界に見たこともない「それ」が現れた。
「あ、……?」
ピンクと紫が混ざったような髪の色。真っ白い肌。黒いTシャツに黒いパンツ、黒いブーツに……黒い翼、と、尻尾。
「──驚いたか? 俺の名はマカロ。偉大なるインキュバスの王子、マカロ様だ」
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