6 / 122

第1話 DKとインキュバス・6

「それはひょっとしてその、……俺が、オナニーしてたからか。分かるか? オナニー」 「えっと、それもあるけど……ほたるの体からすごくいい匂いがして、それでふらふらって……」  自分で体臭を嗅いでみるが、良い匂いとやらは分からない。もしかして散々追い回されて汗をかいたから、その匂いだろうか。 「嗅いでも分からない匂いだよ。フェロモンていうのかな。ほたる、学校でも男の人達から追っかけられてない?」 「え、……」 「それみんな、ほたるの『いい匂い』に無意識に釣られてるんだよ。滅多にあることじゃないんだけど、性欲の強い人だと本能で嗅ぎ分けるから。ほたる、毎日大変だったでしょ」  俺の体から溢れるフェロモン。連日俺を追い回している連中の奇行は、このフェロモンが原因ということか。しかも性欲の強い者だけというなら、彰良先輩や彼女持ちや他の優等生たちが俺に興味を持たないのも頷ける。 「ど、どうすればその匂いを消せるんだ?」  マカロが小さな指を口元にあて、首を傾げた。 「消せないよ? 開花したのは最近かもしれないけど、元々持って生まれたものだもん」 「ふざけんなっ、このせいで毎日俺がどれだけ……」 「お、怒らないでっ!」 「………」  仕方なく腕組みをし、質問を変える。 「で、お前は俺の所に来て何をするつもりだった」 「インキュバスは男の種を集めるんだ。だから、ほたるからも少しだけ分けてもらおうと思ったの」 「種って、精液のことだろ。そんなモン集めてどうする」 「もちろん子を作るためだよ。おれ達は夢の中で交わって種を取ったり宿したりするから、夢魔とも呼ばれてるんだ。女夢魔のサキュバスが人間の男から種を取って、男のインキュバスが人間の女に種を宿すってこと」  腹が立つほど得意顔のマカロだが、その説明は謎だらけだ。好き勝手に子を作る意味が分からないし、そもそも種を取るのが女の仕事なら、なぜ男のお前がここにいる。  そこを突くと、途端にマカロの顔が赤くなった。 「えっと、おれ達が住んでる所で大きいデモが起きたんだ。男女平等ナントカって、サキュバスのお姉さん達が疲れちゃったから、男も同じ仕事をしろって言うの」 「……どこの世界も女が強くなってきてるんだな」 「だからおれみたいな落ちこぼれが、まずはサキュバスの仕事を請け負うことになって」 「確かに落ちこぼれか。変身もバレバレだったし」 「だ、だから!」  マカロが目をぐるぐるに回して動揺している。

ともだちにシェアしよう!