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第1話 DKとインキュバス・9
「おおお……思春期の性欲の香り」
学校に近付くにつれ、生徒達の数も増えて行く。きっちりと制服を着た詰襟学生服って感じの生徒もいれば、改造に改造を重ねてオリジナル学ランにしている生徒もいるし、真面目な黒髪の優等生もいれば野菜みたいにカラフルな頭の不良連中も大勢いる。
この集団の中ならもしかしたら、マカロの頭も馴染んでいたかもしれない。
「堪んねえ。全員ブチ犯してえ」
「人の頭の上で物騒なこと言うなよ」
「で、どいつらが炎樽を狙ってるんだ?」
「あいつらは朝から登校してこない。昼休みまでは暇だと思うよ」
ぶつぶつ言いながら校舎へ入り、いつもの教室──二年A組のドアを開ける。
「うおっ!」
「いてっ、……どうしたんだ、マカ」
頭の上で髪が引っ張られ、俺は掴んだマカロを両の手のひらで包み込んだ。そっと手を開け、様子を伺う。マカロは俺の手の中で仰向けになり、目を回していた。
「ど、どうしたんだってば」
「部屋中に密集した若い性の匂い、半端ねえ……。くらくらする」
「何言ってんだよ? 変態オヤジかお前はっ」
「まさに楽園……いや、手出しできねえなら地獄だな。……うーん」
落ちこぼれと言われても仕方ない、どう見ても役に立たないインキュバスだ。俺はぐるぐる目のマカロを鞄に突っ込み、自分の席についた。
──若い性の匂いか。
しかし言われてみれば教室内にはスポーツ部の朝練で汗を流してきた生徒もいるし、俺なんかよりフェロモン駄々洩れの超絶美形だっている。三年生に混ざって喧嘩に明け暮れる荒くれ者もいる中で、堂々とエロ本を持ち込んで賑わっている奴らもいる。
良くも悪くもそれぞれの生徒に魅力があって、他人の性欲をダイレクトに感じ取ってしまうマカロには、なるほど、高校生の教室というものは楽園でもあり地獄でもあるかもしれない。
──夢魔に生まれなくて良かった。
「炎樽、おはよう」
「おはよ、幸之助 」
「……何か今日のお前、変じゃない? さっぱりしてるっていうか」
「え?」
隣の席の西原幸之助が、机の上に鞄を置いて俺の顔を覗き込んだ。
「炎樽、不細工になった?」
「し、失礼なっ」
けらけらと笑う幸之助だが、俺にはその理由は分かっている。恐らく今も性器に貼っているステッカーのお陰だ。俺に執着していない幸之助でも昨日と今日の違いが分かるということは、かなりの効果があるのかもしれない。いいぞ。
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