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第1話 DKとインキュバス・10
ホームルームが始まって担任の説教じみた話を聞き、今日もまた授業が始まる。
退屈な数学にうとうとしていると、机の横にかけていた鞄の中からマカロがひょっこりと顔を出してパタパタと飛び、筆箱の中へ身を隠してニッと笑った。
『じっとしてろ、馬鹿』
ノートに書いて指でさすと、それを理解したマカロが敬礼のポーズを取って机の上に転がった。一番後ろではないものの席が窓際だからか、今のところ誰にも気付かれていないようだ。
それにしても、こんな生き物が存在しているなんて不思議なこともあるもんだ。消しゴムと同じサイズのマカロはシャーペンに抱き着いたり教科書を捲って潜り込んだり、見るもの全てに興味を示している。
仕方なく俺はスマホを取り出し、音量を消して動画を再生してやった。
マカロが超大画面のゲームプレイ動画に気付いてぴたりと動きを止め、正面に座って大人しく画面に集中し始める。美麗CGを使ったRPGのゲームは壮大な映画としてマカロの目に映っていることだろう。会話の時は字幕も出るし。
大人しくなったマカロにホッとして、黒板の続きをノートに写して行く。見れば他の席でも堂々とスマホでゲームをしている者や漫画を読んでいる者もいて、俺が机で動画を再生していても誰も変だとは思っていない。助かった反面、こんな授業でいいのかと切なくもなる。
その後の授業でもマカロには動画を見せることで大人しくしていてもらい、いよいよ昼休みがやってきた。
「腹減った、炎樽」
「お前の分の弁当は持ってきてないぞ」
廊下を歩きながら目指すのは三年の校舎を抜けた先の購買部だ。ステッカーの効果を試すのと同時に、マカロの分の昼飯を買う。──大丈夫。孝之助だってああ言っていたし、何たって俺には人知を超えた夢魔印のステッカーがある。
恐る恐る前へ進み、学園中で一番の危険地帯である三年校舎の廊下を歩いていると、……
「お」
「炎樽」
「お」
何人かが俺に気付いて視線を向けてきたが、それだけだった。拍子抜けするほどあっさり購買部にたどり着き、マカロ曰く「一番いい匂い」のカスタードクリームパンを二つ買う。
何だ、こんなステッカー一枚で解決するなんて。こいつらの性欲も大したものじゃないんじゃないか。
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