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第1話 DKとインキュバス・11

「………」  異変はパンを買った後に起きた。  自分のクラスへ戻るために歩いてきた廊下を戻っている最中、俺の股間にむずむずとしたものが走り出したのだ。 「ん、……何か、……」 「炎樽、大丈夫か?」 「な、何かステッカーのとこ、変な感じ、……する」  頭の上で髪に隠れながら、マカロが「うーん」と唸る。 「ちょっと数が多すぎた。まさかここまで強いとは」 「は? な、なに? 何の話だよ?」 「奴らの性欲に負けて、ステッカーが剥がれるかも」 「はあぁぁっ?」  思わず大声が出てしまい、余計な注目が俺に集まる。  急いで廊下を走って校舎を抜け、中庭を通って二年の教室へ向かう──が。 「ほーたる」 「ぎゃっ! なに、な、……き、鬼堂天和っ……」  よりによって一番の危険人物に捕まってしまった。馬鹿力にがっしりと腕を掴まれて、力を込めても振りほどくことができない。 「昨日はよくも頭突きしてくれたよなぁ。今日こそは可愛がってやるぜ、覚悟しろ」 「そ、そんなっ……。マ、マカ! こいつステッカーが効いてないっ……?」 「性欲は強そうだけど、何か他の奴らとは違う匂いがするなぁこいつ……。ステッカーの効果がこいつには発動してないとしたら、炎樽に執着するのは性欲だけが理由じゃないのかも」 「悠長に分析してんじゃねえっ!」  俺の腕を引きながら、天和がローテンションの低音ボイスで言った。 「ブツブツ文句垂れてねえで、大人しく俺のモンになれ。比良坂炎樽」 「あっ、……!」  その声が耳から体に浸透し、下半身で小さな爆発を起こした気がした。ステッカーが下着の中でピリリと剥がれる感覚がある。  咄嗟に片手で股間を押さえた俺を見て、天和の顔が訝しげに歪んだ。 「あ、や……やだ……」  息が弾み、頬が熱くなる。ステッカーが剥がれかけているのは、下着の中で俺のそれが芯を持ち始めたからだ。 「は、放せ……。放し、て……」 「………」 「頼むから放し、……って、うわっ?」  突然天和が俺を担ぎ上げ、猛然と校舎とは反対方向へ走り出した。正門を出て道路を挟んだ向こう側──あるのは体育館とスポーツ部の部室、第二体育室に、……体育倉庫。 「お、降ろせっ! 降ろせよ!」 「うわ、揺れるぅ、目が回る……!」  頭の上ではマカロも大慌てだ。落っこちないよう俺の髪を引っ張るものだから、痛いのと怖いのとでもう訳が分からない。  昨日天和に頭突きを食らわせたあの体育倉庫。今日も体育館ではバスケやバレーを楽しむ生徒達がいるのに、誰も俺を担いだ天和が倉庫へ入って行ったのに気付いていない。  マットや跳び箱などが収納されている倉庫と、遊びに使うボール類をしまう体育用具入れが別だからだ。こんなに生徒がいても、誰も倉庫になんか興味はない。

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