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第1話 DKとインキュバス・15
「よく分かんねえけど、ピンチなんだろ。力で解決できんなら俺に任せとけよ」
「た、天和……! でも、向こうは何人いるか分かんないし、完全に正気じゃないしっ……」
「お前は俺のモンだ。他の男には指一本触れさせねえ」
「………」
喧嘩無敗の暴れん坊、鬼堂天和。神か悪魔の運を持つこの男なら、もしかしたら。
「下がってろ、炎樽。そんで、隙見て逃げられそうなら逃げろ」
「天和……」
「ほ、ほたる……もう、おれ、無理かも……」
マカロの腕がだらりと下がり、みるみるその体が子供のそれになって行く。真っ赤な顔で荒い呼吸を繰り返すマカロを抱き上げ、俺は倉庫の奥、壁際へと非難した。
「た、天和、気を付けて……」
「………」
封じる力がなくなれば、鍵の付いていない扉は簡単に開かれてしまう。なだれ込むように三年の連中が倉庫内に入ってきて、俺はぎゅっと歯を食いしばった。
「炎樽!」
「観念しろ、炎樽!」
性欲に狂わされ化け物じみた形相となった、四人の男達。彼らの目はもはや天和の存在を捉えていない。
「捕まえろ!」
「犯せ!」
マカロを抱いて狼狽する俺の方へ、猛然と駆け出した四人──のうちの先頭の一人が、一瞬の瞬きの後で宙に吹っ飛んだ。
「あ、……」
天和の拳が男の顎に炸裂したのだと理解した時には、既に二人目の胸倉が掴まれ頭突きで額を割られていた。続いて鼻先に拳を喰らった三人目が鼻血を噴いて倒れ、最後に残った四人目の背後を取った天和がその首に腕を回し、強烈なチョークスリーパーをかける。
「う、あ……鬼堂、……」
「炎樽に絡むんじゃねえよ。こいつは俺の物だ」
「ク、ソッ……」
「言うこと聞けねえなら、このまま落とすぞ」
「わ、わか、った……わかったって、……!」
天和が腕の力を緩めると、男が鼻水を垂らしながら弱々しく床へ倒れ込んだ。
気を失ったマカロを胸に、茫然と天和を見上げる俺。情けないが腰が抜けていて逃げるどころじゃなかった。拳に付いた相手の血を振り払う天和がそんな俺に気付き、尖った犬歯を覗かせて笑う。
「逃げてなかったのかよ。俺に見惚れてたか?」
「……ち、違うけど……」
締め落とされる寸前だった男以外は全員、完全に伸びている。だけど天和のそれはむちゃくちゃに殴ったとか再起不能なまでに叩きのめしたとか、そういう暴れ方ではなくて……何というか、「綺麗な闘い方」だった。素早さと重さを兼ねた一発の攻撃で三人を秒速ノックダウンさせ、残る一人も脅し……という名の説得であっさり黙らせてしまった天和。
天和の強さは耳にしていたけど単なる喧嘩好きの不良だと思っていただけに、その勇姿は意外な衝撃を俺に与えた。
「立てるか、炎樽」
「う、うん」
差し伸ばされた天和の手を素直に掴み、壁に背をつけながら立ち上がる。何があったのかと恐々こちらを見ている生徒達の間を抜けて体育館を出た天和が、そのまま俺を下足室へと連れて行った。
「……どこ行くんだ?」
「今日はもう閉店。俺んち学校の近くだから寄ってけよ」
「えっ? が、学校サボるってこと?」
「そいつ抱えて授業受けれんのか?」
俺の腕の中で未だに気絶しているマカロを指して天和が言った。……そうだ、こいつのこと何て説明すればいいんだろう。
「それに、お前が俺の物になった記念の続きもしねえとな」
「なってねえから!」
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