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第2話 男子高校生のフラグ・2

「全く……油断も隙も無い」 「……同じベッドに寝てる時点で、油断も隙もねえのはお前の方だし……」  床の上であぐらをかいた天和が口を尖らせて文句を言う。言い返せない恥ずかしさに赤面しながら、俺はリビングを出て廊下の流し台へ行き顔を洗った。 「お前、小さくなれるならその方が食費も抑えられるんじゃねえの」 「そこは別に変わらねえんだ。体が小さくても子供の姿でも食う量は普段と同じ!」 「役に立たねえ能力だな」 「な、何だと!」  天和がマカロをからかっているのをぼんやり聞きつつ、勝手に冷蔵庫を開けて中を見る。朝食になりそうな物は何も入っていなくて、男一人の生活の侘しさを何となく実感する。俺も将来はこうなりそうだ。 「レンチンする米ならあるけど、おにぎりの具になりそうな物がないってことか……買って来た方が早いな」  そこまで呟いて、ふと気付いた。  昨日は昼休みのあの事件の後すぐに天和の家に来たから、鞄から財布から全て教室に置きっぱなしだ。一晩明けて気付くなんて、相当に気が高ぶっていた証拠かもしれない。 「ていうか、天和の鞄も学校に置きっぱなしになってるってこと?」 「俺は常に放置してる。家近いから別にいちいち持ち運ぶこともねえし」 「財布とかは?」 「財布はケツのポッケに入れてるけど」  天和は「物を持って歩く」という行為がとにかく嫌なのだと言う。常に身軽でいたいのは、道で突然不良どもに絡まれた時のためらしい。日常でそんなことを考えている学生がいるなんて考えたこともなかった。 「傘だけは割と武器になるから、雨止んでも捨てねえけど。ほら、先が尖ってるのとか未だにあるだろ、ああいうやつ」 「や、やめろよ! そんなので突いたら死んじゃうんだからな!」  今更ながらこの男の恐ろしさに気付き、俺はその場で後ずさった。  天和が遊び人と言われる所以、すなわち夢見る下級生たちが天和に群がる理由──それは単純な意味で天和が「強い」からだ。他校の不良連中やチームに属している奴らも、道ですれ違ってもまず天和とは目を合わさない。それとなく下を向いて道を譲るものだから、天和と一緒に歩いている奴が優越感を感じてしまうのも無理はないのかもしれないが。  三十人を相手に一人で勝ったとか、鉄パイプで五十人の頭を順に叩き割ったとか、年に三度は鑑別所に入っているとか。そんな凶悪な噂は後から付いてきたもので根も葉もないことだが、友人と呼べるクラスメイトがいない天和がクラスでも浮いた存在だというのは何となく想像がつく。  ……そして、そんな男から好かれている俺って一体何なんだろう。

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