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第2話 男子高校生のフラグ・4
なぁ、とマカロが俺の髪を引っ張る。
「マカ、どうした?」
「俺達、変な匂いに囲まれてる。多分、天和のことが好きな後輩たちの匂いだ」
見れば周りには遠巻きに俺達を眺めている下級生がちらほらいて、その熱っぽい視線は皆天和に向けられていた。髪も顔も小奇麗に整えた「可愛い」男子生徒達。女っぽい訳じゃないのに間違いなく可愛く見えるのは、一体どういうことなんだろう。
「あぁ~ん、天和先輩、抱いて~」
「変なアテレコすんなよ、マカ!」
「……っていう心の声が駄々洩れするくらいには強烈な匂いだ。炎樽のこと追っかけてた奴らも、こういうのを狙えばいいのに」
当の天和はむっつりとした顔で、全く後輩たちの方を見ようとはしない。昨日聞いた話が本当なら、毎日こんな視線を受けて言葉にして迫られて、曲がりなりにも思春期の男子にそれを断れという方が難しいのかもしれなかった。
「俺はもう硬派でいく」
呟いた天和を見て、無理してるなと思いつつ何だか微笑ましくも思えてつい笑ってしまった。
「俺はもう硬派でいく。俺はもう硬派でいく。俺はもう硬派でいく。俺はもう……」
「そ、そんな呪文みたいにしないと意思が持てないのか?」
「あはは! 天和、頑張れ!」
俺の頭の上でマカロが転がって笑い、それから、「年頃の高校生が無理に性欲我慢すると後が怖えぞ」と俺に脅しをかけるような声色で囁いた。
「別に大丈夫だろ、天和なら黙ってれば充分硬派に見えるし。それに年頃ったって、中学の頃と比べたら少しは大人になってる訳だし、性欲も制御できるようになってる」
「甘いな炎樽。中学・高校、両方セットで『性欲の塊』だぞ」
「大丈夫だって。今の高校生を甘く見てるのはマカの方だろ」
「じゃあ炎樽は性欲我慢できるのか?」
「できるっていうか、あんまり俺は性欲そのものが薄いもん。……薄いっていうか、人並み」
はぁーん、と意地悪く笑って、マカロが俺の頭から肩へと宙返りで移動した。
「じゃあ今日は、俺が炎樽の性欲を試してやるよ」
「余計なことするな。学校では大人しくしてろってば」
「炎樽の性欲?」
こちらを思い切り振り返った天和が目を見開き俺を凝視する。今にも涎と鼻血を垂らしそうなほど興奮したその顔は、既に硬派の欠片もない……。
「炎樽の性欲……」
「と、取り敢えずまた後で合流するってことで。じゃあな天和!」
早口で言って強引にその場を離れ、走って自分の教室を目指す。俺にも一瞬だけ伝わった天和の「匂い」──それに触れ続けるのは危険だと本能的に察知したからだ。
マカロに見栄を張ったばかりだが、俺にだって性欲はある。人として当然の制御ができるというだけで、昨日の体育倉庫での出来事みたいに直接的な刺激を与えられたらどうなるかは分からない。
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