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第2話 男子高校生のフラグ・5

「男って、不便な生き物だな……」  呟いたその時、廊下の角を折れてこちらにやって来る三年生の姿が目に入った。彰良先輩だ。朝から爽やかで柔らかな笑顔を周囲にふりまき、その周りだけ花びらが舞っているようにすら見える。 「あ、炎樽くん。おはよう」 「お、おお、おはようございます……!」  またもや先輩の方から声をかけてくれた。しかも俺の名前、知っててくれてる。  たったそれだけの会話だけれど、まるで宝くじに当たったような気分だ。  別の意味でふわふわの良い匂いをさせながら俺の横を通り過ぎようとした彰良先輩が、「そうだ」と言ってこちらに顔を向けた。 「炎樽くん。君の家、いまお母さんが仕事で海外に行ってるんだってね。一人で不便なことがあったら先生に相談するんだよ。もちろん、俺に出来ることなら言ってくれてもいいし」 「あ、ありがとうございますっ」  勢い良く頭を下げたものだから、そこに乗っていたマカロが「ぎゃっ」と悲鳴をあげて床に落ちてしまった。 「大丈夫? 今、何か落っこちたけど……」 「だ、大丈夫です。何だろう、あ、キーホルダーだ」  慌ててマカロを拾い、制服のポケットに入れる。 「面白いね。頭にキーホルダーを乗せてたの?」  くすくすと笑う彰良先輩はやっぱり綺麗でカッコ良くて、思わずほれぼれしてしまう。この人の「匂い」にあてられたら、流石に俺も我慢できなくなるかもしれない。 「出せ、炎樽! って、強く握るなっ! 出せー!」  ポケットに入れた手の中でマカロが大暴れしている。かろうじて彰良先輩に声は届いていないが、手のひらに噛み付かれたりパンチされたりと地味に痛い。 「大丈夫? 炎樽くん、汗かいてるけど」 「出せ! 痛てえってば、炎樽! 放せっ」 「だだ大丈夫です、すみません。俺じゃあそろそろ教室に……」 「うん、俺もそうするよ。それじゃあまた──」 「くそ、こうなったら……!」  手の中でマカロが一瞬大人しくなった。それに気を取られた瞬間、…… 「わっ……」  歩き出そうとした彰良先輩が突然バランスを崩し、俺の方へと体ごと倒れてきた。慌てて支えようと手を伸ばしたが咄嗟のことに対応しきれず、俺も先輩の体重を受けて思い切り背中から倒れてしまう。結局二人して床に倒れる羽目になり、俺は涙目になって身を起こしながら先輩に言った。 「だ、大丈夫ですか? いてて……ケツも打った」 「ご、ごめん炎樽くん。何か急に……」 「………」  彰良先輩の顔が、俺の股間に思い切り埋められている。 「っ、……、……!」  それを視覚で認識した瞬間、俺の首から上が沸騰した。

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