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第2話 男子高校生のフラグ・6

「ごめん、急に転んで……大丈夫、炎樽くん……」 「あ、あ、彰良先輩っ……」 「え? ……あっ、ご、ごめん!」  気付いた先輩が慌てて上体を起こし、顔を真っ赤にさせて身を引いた。いつもの優しい表情も今は崩れている。相当衝撃的だったのだろう。  俺だって突然のハプニングに心臓がバクバクだ。先輩の動揺した顔にも凄くドキドキする。優等生で皆に優しい彰良先輩が、顔を赤くさせただけでこんなにも色っぽくなるなんて。 「………」 「あ、……」  見開かれた先輩の目に俺の顔が映っている。何だか二人の鼓動がシンクロし合って、時が止まったみたいだ。まるでセッティングされたかのように、朝の廊下には誰もいない。ほんの少しだけ顔を前に出せば、先輩の唇に触れてしまいそうで…… 「炎樽ウウゥゥ──アァァ!」 「うわぁっ!」  その時突然廊下に地獄の鬼のような怒号が響き、俺も彰良先輩もあたふたしつつ互いから離れた。 「誰だっ! ……あ、え? た、天和っ?」  巻き舌で俺の名前を呼んだのは、下足室から廊下へ繋がるドアから顔を出した天和だった。  現れた天和は肩で息をし、目も歯も剥いて俺を睨んでいる。髪の毛は怒りのためか静電気に嬲られたように逆立っているし、まさに鬼の形相だ。 「てめぇ、俺には散々言っといて浮気してんじゃねえぞッ!」 「う、浮気って何だよっ? 俺は何も……!」 「鬼堂……」  彰良先輩が制服についたホコリを払いながら立ち上がり、体ごと天和の方へ向いて頭を下げた。 「済まない。炎樽くんとは君を怒らせるようなことをしていた訳じゃないんだ。ただ俺が転んでしまって、彼を巻き込んでしまった。本当に済まない」 「うるっせぇ! てめぇには言ってねんだ、すっこんでろクソガキ!」  彰良先輩の真摯な言葉も耳に入っていない様子で、天和が鬼の咆哮をあげる。あくまでも俺に対して怒っているらしい。  未だ尻もちをついたままの俺のポケットからマカロが這い出てきて、囁いた。 「ご、ご、ごめんほたる。……俺があの人転ばせたから、たかともが怒っちゃった」 「ええっ、マカが先輩を転ばせたのか?」 「だってほたる、俺のことぎゅってするからぁ……」  天和の尋常でない怒り方を見て、マカロは早くも子供の姿になってしまっている。無理もないけど……ビビる度に子供になっていて夢魔なんて務まるんだろうか。 「ど、どうしようほたる。たかとも怒ってるよ……」 「……大丈夫だって、そんな怯えなくても」  腕まくりをしてこちらにズカズカやってくる天和。彰良先輩も動揺しているしマカロは目がぐるぐるだし、この場で天和の怒りを治められるのは俺しかいない。  仕方なく俺も立ち上がって、自ら天和の方へと歩いて行った。

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