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第2話 男子高校生のフラグ・7

「天和。先輩が言った通りこれはちょっとした事故で……」 「てめぇが隙見せてっからだろうがァ……!」 「事故なら隙を見せた方が悪いってわけ?」 「当然だ!」 「そ、そうかよ! そこまで言うなら……!」  少しだけ背を伸ばし、天和の頭に軽く手を乗せる。 「っ……」 そのままくしゃくしゃと髪を撫で、してやったりの顔で天和の目を覗き込んだ。 「隙だらけじゃん、天和だって」 「………」  めちゃくちゃ恥ずかしいけど、これで大丈夫なはずだ。怒った恋人を宥めるには頭ナデナデが一番だって、昔読んだ漫画に書いてあった。  ──まぁ、こいつは俺の恋人じゃないんだけど。 「………」  茫然としている天和。ハテナマークを散りばめている彰良先輩。床にぴったりと伏せて見守っているマカロ。  これで大丈夫……な、はず。 「か、か……」  怒りなのか照れなのか分からないけれど、とにかく天和の顔は真っ赤だった。 「か、可愛い子ぶってんじゃねえぇッ!」 「ひえっ──!」  そして逆効果。  殴られると思って目をつぶった瞬間、痛みよりも先に息が止まった。 「んんっ……!」  見開いた視界いっぱいに天和の顔がある。呼吸が出来なくなるほど強く唇を塞がれ、俺の体が廊下の壁に押し付けられた。 「んぐっ、ん、んうぅ……!」  強引に天和の舌が入ってきて、口の中をかき回される。背後は壁、目の前には屈強な男の体──どう足掻いても逃げられないし、それよりもまず俺の体はカチコチに固まってしまっている。  俺のファーストキスだったのに、まさかこんな形で奪われるとは──しかも彰良先輩の前で。 「……ぷはっ!」  一分以上舌を吸われてようやく解放された俺は、壁に背を預けて小鹿のように震えながら天和を見上げた。 「……これで許してやる。次はねえからな」  吐き捨てるように言って踵を返した天和は、耳まで真っ赤だった。途中までは確実に怒っていたけれど、……もしかして照れているんだろうか。 「ほ、炎樽くん!」 「先輩、……すみません、巻き込んでしまって……」 「大丈夫だよ。俺の方こそごめんね」 「そんな……」 「君と鬼堂が付き合っていたなんて、知らなかったから」 「え? お、俺達は別に、付き合ってなんか──」 「ふふ、でも少しホッとするな。あの鬼堂が君みたいにまともな子を選ぶなんて。これで少しは学園の治安も良くなるといいんだけど……」 「………」  彰良先輩の穢れを知らない笑みに、何も言い返せなくなる。 「鬼堂のことよろしくね、炎樽くん」 「……は、はいっ! 任せてくださいっ!」  咄嗟に返事をしてしまった瞬間、俺の中で別の俺が囁いた。これで彰良先輩とのフラグはバキバキに折れてしまったぞ、と。

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