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第2話 男子高校生のフラグ・14

 言われて少しムッとなったが、教室で見た光景を思い出して俺はつい含み笑いをした。 「でも天和、ちゃんと一年生のお誘い断ってたな。こうやって抜く羽目にはなったけど、誘惑に負けると思ってたから見直したよ」 「あれも見てたってのか」 「偶然だけどね。毎日フラグが立つっていうのも大変だなって思ったよ」  天和がそっぽを向いて頬をかき、「てめえで決めたことだ」と小さく呟いた。  ただでさえ性欲に囚われがちな男という性別で、その上十代の盛んな時期。三日で精子は溜まるというから、その理論に沿えば少なくとも三日に一度は発散しないとならない。オナニーは恥ずかしいことじゃなく、セックスだって互いに正しい知識と責任を持って行なえば良いと思う。  ただそこに「感情とか事情」が入ると話はまた違ってきて、ただ性欲を発散するためのセックスだと途端に卑猥なものとして見られることになる。愛がないとか遊びだとか、……そう言われるのはやっぱり、普段人には見せない姿を見せることになるからだろうか。 「………」  だって俺は天和とこんなことをしてしまっているけれど、素っ裸になって恥ずかしい格好をしたりする、ってなったら……やっぱり「信頼できる好きな人」としかしたくない。と、思うし……。  痛いだろうし、苦しいだろうし、泣くだろうし。  ……大事にしてくれる人とじゃなきゃ、無理だろうなぁ。 「取り敢えず場所移動して、飯でも……」  便座から腰を上げたその時、個室の向こうで知らない生徒達の声がした。 「おおい。ここ、誰か入ってんだろ。匂いやべえぞ」 「俺達も混ぜろ!」  からかうような声色と共に個室のドアがノックされ、俺は立ち上がりかけた中腰のままぴたりと体を停止させた。  天和がニヤつきながら、外の生徒達に向けて悪態をつく。 「てめぇら、邪魔すんなら後でぶっ飛ばすぞ」 「げっ、鬼堂か。やべぇ、邪魔したな」 「の、覗くだけも駄目か?」  天和が俺の腕を引き、腰を絡めとって自分の体へ密着させた。俺は何も出来ずにじっと息を潜めるだけだ。 「覗いたら目ん玉潰すからな。……まぁ、聞くだけなら許してやるけど」 「えっ? た、天和──」  言うなり天和が俺の唇を塞ぎ、中で舌を絡めてきた。今朝されたような息苦しいキスではなく、……ゆっくりと甘く、愛おしむような動きで。 「ん、っ……」  同時に片手で尻を揉まれ、もう片方の手で耳の付け根を柔らかく揉まれる。唇は離れているのに舌先は触れ合ったままで、俺はとろけるようなキスがあるということを生まれて初めて知った。──僅か二度目のキスなのに。 「は、ぁ……」 「エロい気分になってくるか? このままひん剥いて犯してえけど、流石にトイレが渋滞しても後が面倒臭せえからな……」  俺を解放した天和が便座に足をかけて上り、個室ドアの上の隙間から外を覗いて言った。 「てめぇら今すぐどっか行け。抜くなら教室でヤッてこい」 「わ、分かったよ。……勝手な奴だな……」  すごすごとトイレを出て行く生徒達を見届けてから、床に降りた天和が個室の鍵を開けて俺の手を取った。 「購買で昼飯奢ってやる。まだ多少時間あるし、炎樽の教室で食おうぜ。あのチビも待ってんだろ」 「う、うん。……あれ、でも天和、今朝コンビニで俺の飯買っといてくれたんじゃ……」 「そんなモン、二時限目には食い終わった」 「……あ、あっそ……」  何とも色々な出来事があったけれど、当初の目的だった「ゆっくり飯を食う」という目標は何とか達成できそうだ。  俺は唇に残る天和の熱にそっと指で触れ、その瞬間確かに聞こえた胸の鼓動を無理矢理心の奥へと押しやった。

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