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第3話 秘密の土曜日・2

「たかとも! たかとも、たかともっ!」 「うるっせ、……朝っぱらから、何だ」  ベッド横の窓を開けると、十日前に突然現れた夢魔とかいう得体の知れないモノが俺の部屋に飛び込んできた。こいつは自分の体を自在に小さくできるとかで、宙も飛べるし不思議な力も持っているが、どこか間抜けなピンク頭のチビだ。名前はマカロ、好物は握り飯。全て炎樽から聞いたことだが、気色の悪いことにこいつは男の精子を集めているらしい。 「ほたるとケンカしたぁ。追い出された!」  体を小さくさせるだけでなく条件によっては子供の姿にもなるようで、今のマカロは幼稚園児みたいなサイズになっていた。顔をしわくちゃにして泣いている様はガキそのもの。俺の中で「魔物」のイメージといったらデカくて恐ろしくておどろおどろしい物だったが、まさかこんなに人間くさい存在だったとは。 「何やらかしたんだ、てめぇは」 「お、おれ何にもしてない! ほたるが『朝勃ち』してたから、手伝ってあげようとしただけ!」 「やらかしてんじゃねえかよ」  うおぉぉと声をあげて泣くマカロに舌打ちし、立ち上がった俺は自分の朝飯用にと買っておいたコンビニの握り飯をそいつに渡してやった。 「おにぎり!」  瞬時に目を輝かせたマカロが、封もあけずにそのまま齧りつく。案の定食えないのに気付いてまた目を潤ませたところで、「いちいち泣くな!」と強引にそれを取り上げる。 「袋を開ければ済む話だろうが。ちっとは覚えろよ、こんな常識」 「たかとも、ありがとう!」  どちらかといえば子供からは怖がられるタイプなのだが、こうも屈託なく笑顔を向けられると、あの日ウサギを抱いていたあいつを思い出す。  比良坂炎樽──。あいつが俺と同じ高校に来ていたと知った時は驚いた。初めて廊下で見かけた時は何か接点を持ちたくて、必死に考えた挙句に尻を揉むという奇行に出てしまったが。めげずにつけ回していたら、他の奴らよりは少しだけ親しくなることができた。  それもこれも、このマカロのお陰なのかもしれないが。  幾つか抱くチャンスはあったのにそれをしなかったのは、やっぱり嫌われるのが怖かったからだろう。俺に「怖い」なんて感情があるのかと知った瞬間、退屈な日々に少しだけ色が差した気がした。 「しあわせ……」  鮭の握り飯を口いっぱいに頬張って咀嚼しながら、マカロが目を細めて俺を見上げた。笑えるほどのバカ面だ。 「たかとも、エッチな夢見てただろ。匂いが残ってる」 「見てねえよ別に」 「ほんと? おかしいなぁ……」 「お前、夢魔なら人の夢の中に入ったりできるのか? ていうか本来は夢の中で人間とヤる存在なんだろ」 「それはちゃんとした経験豊富な夢魔の仕事」と何故かマカロが得意げに言った。 「おれみたいな生まれたては、雑用から始まるからな。体張って現実世界で山ほど種集めて、兄貴に渡して褒めてもらうんだ」 「兄貴がいるのか」 「兄弟はいっぱいいるよ。おれみたく代用として送られたんじゃなくて、始めからサキュバスみたいな弟もいるし。本物のサキュバスのお姉さん達がストライキしてるから、兄弟たちも種集めるのに必死なんだ」

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