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第3話 秘密の土曜日・3
よく分からないが、取り敢えずこいつは男の精液を欲しているということだ。俺が炎樽に出会わなければ大いに協力してやれたところだが、こいつがいなければ炎樽とも親しくなれなかったのもまた事実。人間関係におけるパラドクスというやつか。
「それ食ったら炎樽のとこ戻ってやれよ。あいつも心配してんじゃねえの」
「ほたる、ここで一緒にたかともと暮らせばいいのに」
「あいつにはあいつの事情がある。無理強いはできねえ」
「やっぱりたかともって、優しい」
「うるせえな。捻り潰すぞ」
ひえ、と情けない声をあげてベッドの中へ潜り込むマカロ。布団から顔だけ出して「たかともは褒めると怒る」と文句を言い、俺が睨むとすぐに布団の中へ引っ込んだ。
布団の中に潜ったまま、マカロが言う。
「だって、ほたるも言ってたよ。たかともって噂と全然違う奴だって。意地悪でエロくてすぐ怒るけど、悪い奴じゃないって」
「他には」
「え? えっと、……硬派計画も頑張ってるって言ってたし、見た目はカッコいいって言ってた」
「他には」
「……それで全部」
やっぱり、炎樽は覚えていないのか。あの時俺のためにウサギを捕まえてくれたことを。それほど大した思い出じゃないということだろう。同じ経験をしたとしても、どれが記憶に残るかなんて人それぞれなのだ。
「でもほたる、たかとものこと少しは意識してると思うよ」
「………」
「他の男と違って、性欲で惹き付けられてる訳じゃないってのが、ほたるにとっては大きいのかもね!」
俺は拳を握り、あぐらをかいた自分の膝を叩いた。
「同じだっつの」
「……たかとも?」
「好きな奴に性欲感じねえなんて男じゃねえだろ。……俺だってなぁ、根っこの部分では他の奴らと同じだ。隙あらば炎樽を犯してぇ。掘りまくって泣かせてぇ」
「で、でもそれは好きだからでしょ?」
恐る恐る顔を出したマカロが俺を上目に見つめ、小首を傾げた。
「好きなのは好きだ。俺は昔からあいつに惚れてる。……それでもこの、底から沸き上がってくる願望がただの性欲なのか愛情なのか、分からねえんだ」
今ここに素っ裸の炎樽がいたら間違いなく犯す自信がある。好きな相手だから勃たないなんて抜かすほど俺は純粋じゃないし、多少の自制はできるがこのまま我慢していたらいつか炎樽に酷いことをしてしまうのではと、不安になる。
あの生意気そうな大きな目や、触れると爽やかな香りを放つ茶金の髪、意外としっかり男らしい体のラインに、驚くほど敏感で素直な性感帯。間抜けな面も多いが芯は強く、俺がすごんでも物怖じせず立ち向かってくる度胸も持ち合わせている。
俺にまとわりついていた奴らとは全く違うタイプの男──それが比良坂炎樽。
好きな奴と、それ以外の奴とに抱く性欲ってのは、何か違いがあるのだろうか?
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