36 / 122
第3話 秘密の土曜日・4
「思春期の悩みだね」
知った風な口を利かれてマカロを睨むと、俺の怒りを打ち消すような満面の笑みが返ってきた。
「そんなたかともに、おれが良い物あげるよ。夢魔印の催眠水晶!」
布団から出した小さな手には、紐が括り付けられた薄ピンク色の石が握られていた。ダイヤの形にカットされていて、ネックレスのようにも見える。
「何だそれ」
「催眠術って知ってるでしょ。これを相手の前でゆらゆらさせて、暗示をかけるんだ」
「そんな手で炎樽をゲットしても嬉しかねえよ」
違う違う、とマカロが布団から出て俺の前に立つ。
「この水晶の暗示は、相手に『その気』がない場合は全く効果が出ないんだ。これを使ってほたるが何も変わらなかったら、今現在、ほたるの気持ちはたかともに無いってこと」
「逆に少しでも俺に気があれば、一気に催眠にかかるってことか」
「うん。だからそれを見極めるために使うって方法が正しいかもね。実際これはパーティーグッズとして売ってるものだし……。催眠にかからなかったら自意識過剰で罰ゲーム、みたいな。合コンとかでよく使われてるよ」
「そっちの世界にも合コンがあるのか」
くだらない遊びだが、俺達の世界では人知を超えた魔法に違いない。俺はマカロから水晶を受け取り、試しにマカロの前で揺らしてみた。
「……ふえ?」
「お前は今から俺のためにコンビニで昼飯を買ってくる。俺のために協力してえ気持ちがあるお前は、コンビニ行ってラーメンとコーラを買ってくる」
「……あ、……」
マカロの目が右へ左へ、水晶の動きを追って揺れている。
「ていうか、行ってこい」
「んあ、……あ、たかとも。おれ、コンビニ行く……」
「効いたな。本物だ」
子供から大人の姿になったマカロが、ふらふらと飛びながら玄関に向かう。俺はマカロの尻尾を掴み、「その姿じゃやべえだろ」と翼を隠すパーカを着せてやり、ついでに千円札を握らせた。尻尾はまあ隠さなくても良いだろう。センスの悪い奴だと思われるだけだ。
「………」
この水晶を使えば、炎樽の気持ちが明らかになる。
マカロの言っていたことが本当ならば、俺に悪い印象は持っていないはずだが……もしも一切反応がなかったらと思うと、……まぁ、少しショックではある。
言っておくが俺は、見た目ほど打たれ強い男じゃねえんだ。
ともだちにシェアしよう!