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第3話 秘密の土曜日・5

「あ、あれ……天和。どうしたんだ? 急に……」 「………」 「あ、もしかしてマカがお前の家行った? わざわざ送り届けてくれたのか、悪いな」  土曜日。両親のいない一軒家で寛いでいたらしい炎樽は、白いTシャツに太股剥き出しの短パンという犯されても文句が言えない格好をしていた。「つい家だとだらしないの着ちゃうんだよ、へへ」と笑ってはいるが、それも含めて凄まじい破壊力を持っているのに本人には自覚がない。  俺は無言で炎樽の家へ上がり、リビングのソファに未だぼんやりしている小型のマカロを放り投げた。 「マカが迷惑かけたか? ごめん、天和」 「いや、……」  黙っているとどうしても怒っていると勘違いされてしまう。本当は頭の中で色々考えているのだが、言葉にするのが下手なだけで口数の少ないおっかない奴だと言われてしまうのだ。何年もそれを繰り返してきたはずなのに、学生生活最後の春を迎えても俺は成長できていない。 「と、取り敢えず座れよ。何か飲む? ジュースしかないけど」 「炎樽よォ……」 「ん?」 「お前、乳首透けてんぞ」 「え? ──あっ、見るなよ、変態!」  女みたく交差させた両手で胸を隠し、炎樽が俺に向かって唾を飛ばす。 「もしかしてお前、また俺の乳首吸いに来たんじゃ……」 「………」  そんな印象を持たれているとは。試す前から傷付くじゃねえか。 「別にそんなつもりねえけど。エロいことされたいのはお前の方なんじゃねえの」 「はぁ?」 「そんな恰好で誘ってんじゃねえか」 「さ、誘ってない! 一人だったから……着替えてくればいいんだろ!」  つい心にも無いことを言ってしまうが、俺に翻弄される炎樽は可愛かった。  そうだ。俺はこいつを「可愛い」と思っている。それが今まで関係を持ってきた男達とは違う。誰かを愛おしく思う気持ち、それが炎樽と出会って初めて抱いた、「可愛い」と思う感情。  ウサギや犬猫を可愛いと思うのとは少し違う、炎樽は可愛いが、ただ愛でるだけの可愛さではない。  何というか、──虐めたくなる。 「炎樽」 「うん?」  俺は炎樽の目の前に水晶を下げ、左右に揺らしながら言った。

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