45 / 122

第4話 ナイトメア・トラップ

 月曜日。  新しい先生がやってきたぞー!  という学校生活ならではのイベントも、男子校では余程の美人女教師でない限りさほど盛り上がらないのが当たり前だ。ましてこの学校は教師も全員男だから、始めから生徒達もそんなイベントに期待などしていない。 「退職された井川先生に代わり、新しく保健室の先生が来て下さいました」  天和に散々なことをされた週末明け、月曜日の朝礼でその先生を見た時……俺は我が目を疑った。 「砂原(さばら)一郎と申します。初めてのことが多くて緊張していますが、皆さんと多くのことを学んで行けたらと思います」  壇上で挨拶をしたその男は、帳が丘学園創立以来最年少と言っても間違いないくらいに若くてハンサムな人だったのだ。 「怪我や具合の悪い人だけでなく、悩み相談や心のケアも行なえたらと思っています。皆さん、どうぞいつでも保健室に遊びに来て下さい」  明るい茶髪に甘いマスク、背が高くて優しい笑顔。まるで彰良先輩をもう少し大人にしたかのような綺麗な人だ。  俺は壇上の砂原先生にうっとりと見惚れてしまった。 「ほ、炎樽ー!」  そんな俺の元に小バエが飛んで来たかと思ったら、今日は天和の見張りをしているはずのマカロが俺の胸にしがみついて目をぐるぐるにさせていた。 「な、何だよ……! 朝礼中に飛んで来たら誰かに見られるって……」 「炎樽、大変大変! 今の奴、大変なんだ!」 「は? 何言ってんだ」 「あいつは俺の幼馴染で、めちゃくちゃ性格が──」 「比良坂!」  突然のマカロに驚き慌てた俺の姿がふざけていると思われたらしく、前の方にいた担任に怒鳴られてしまった。視線が俺に集まり、マカロが学ランの中へと身を隠す。 「それでは以上で朝礼を終わります。礼!」  春の手洗い・うがい運動。  春は気温の高低差が激しく、体調を崩しやすい季節でもあります。外から帰って来た時は、必ず手洗い・うがいをしましょう! 「………」  まるで小学校の廊下に貼ってあったポスターだ。  たまたま教室移動の時に通りかかった保健室の前には、何やら生徒による人だかりができていた。 「砂原先生、何だか目眩が酷くて」 「先生、ちょっと熱っぽいです」 「俺も何か具合悪い気がする」  少し首を伸ばして、開放されたドアの向こうを見てみると…… 「仕方ないな。思春期の体は色々な影響を受けやすいから、ちゃんと日々のケアをしてあげないといけないよ」  生徒達の訴えを聞いて困ったように笑う砂原先生。その周りには頭を撫でられて猫のようにゴロゴロいっている生徒や、朝礼の時の俺みたくうっとりと見惚れている生徒もいる。第一日目から大人気だ。

ともだちにシェアしよう!