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第4話 ナイトメア・トラップ・3
「凄い反響だなぁ。男でも美人だとチヤホヤされるのがウチの学校っぽいよな」
幸之助が閉まったドアを見て、感心したように溜息をつく。
「幸之助も診てもらえば? 可愛いより綺麗な人がいいっていつも言ってるじゃん」
「確かに綺麗だけど、そもそもの性別がなぁ……」
俺の数少ない友人である高田幸之助。剣道部で青春していて見た目も中身も爽やかなのに、何故か彼女いない歴が年齢と同じという謎の奴だ。親しくなれたのは教室での席が隣だからというのもあるけれど、幸之助自身が定期的にスポーツで色々と発散しているため、三年の連中よりも性欲が抑えられているという理由もある。
「ここが女子校だったらハーレム作れそうなのに、勿体ないな。何でウチに来たんだろ」
「男子校なら問題起こしてクビになることもないからじゃねえの? 俺だってもう少し頭良かったら、将来女子校の先生を目指してたのにさぁ……」
「幸之助は体育会系だもんな。あ、でも女子校の体育の先生ならなれそうじゃん」
「一番嫌われるポジションじゃんか」
笑いながら保健室の前を通り過ぎ、校舎を出て英語の授業が行われる第一学習室を目指す。英語は学年で成績がランク付けされていて、それに応じて授業を受ける場所が変わる。俺や幸之助のような「中の下の成績」である「Cクラス」は、元々の教室から離れた旧校舎へと追いやられるのだ。
中庭を通り抜け、来年取り壊される予定の旧校舎へ入ろうとしたその時。
「炎樽」
「た、天和……」
丁度旧校舎から出てきた天和が、俺を見つけて手を挙げた。昨日俺が殴ったせいで顔に痣ができている。痛そうで申し訳ないと思ったが、……俺だって相応のことをされたのだ。
天和が俺の名前を呼んだことにぎょっとしたらしく、幸之助が「すげえな。お前、あの人知り合いなの?」と俺に耳打ちする。恥ずかしさから天和を無視して通り過ぎようとしたその時、
「待てよ。あいつから聞いてねえか」
天和に腕を掴まれ、俺はビクリと体を震わせた。
「な、何を……?」
「新任の保健教諭のことだよ。マカが何か言ってなかったか」
「別に聞いてない……と思うけど……」
俺と天和が話し始めたのに気を遣ってか、幸之助が笑いながら「先に行ってるぞー」と校舎の中へ入って行った。
天和に腕を掴まれたまま廊下の隅に連れてこられ、改めて問われる。
「マジで何も聞いてねえのか」
「………」
俺は丸めた英語のノートで自分の頬をぽんぽん叩きながら考えた。
確かに朝礼中、慌てた様子で飛んできたマカロが俺に何やら言っていたけれど……。
「そういえば、マカは? 天和の所に戻ってきてる?」
「いや。お前の所にいると思ってたが」
「え。ど、どこ行っちゃったんだあいつ……」
頭の上を探しても学ランの中を探っても、マカロの姿はどこにもない。学校内では他に行き場所なんてないし、ふらふら飛んでいて誰かに捕まったら大騒ぎになる。
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