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第4話 ナイトメア・トラップ・4
「はぐれちゃったとして、大人しく俺の教室にいてくれればいいけど……」
「そのマカが言うには、今日来たあの保健教諭はあいつの知り合いらしいぞ」
「え?」
天和が横に視線を滑らせ、廊下を歩く他の生徒に聞こえないよう小声で言った。
「サバラとかいう夢魔で、マカはあいつに怯えてた。どういう目的でこの学校に来たかは知らねえが、向こうは少なくとも俺とマカが一緒にいる所を見ている」
「………」
「……まだお前のことは知られてねえかもしれないが、一応気を付けておけ」
「わ、分かったけど……」
同じ夢魔に対して怯えるなんて、一体どういうことなんだろう。
そしてもし本当に砂原先生が夢魔なら、彼に群がっている生徒達は──。
「……天和。俺、保健室行ってくる」
「は? いま気を付けろって言ったばかりだろうが。軽率に行動すんな」
「もしかしたらマカもそこにいるかもしれないし。それにあの先生が夢魔なら、知らずに保健室で休んでる生徒達が危ないかもしれないじゃん!」
言いながら廊下を走り出した俺に舌打ちして、天和もすぐに後を追ってきた。
来た道を戻り中庭を抜け、二年校舎一階の保健室を目指す。「手洗い・うがいをしましょう」──例のポスターが目に入ったその時、一瞬、俺の視界が歪んだ気がした。
「っ……?」
「炎樽っ、大丈夫か」
春の手洗い・うがい運動。
春は気温の高低差が激しく、体調を崩しやすい季節でもあります。外から帰って来た時は、必ず手洗い・うがいをしましょう!
「あ、……」
ポスターに描かれているポップなイラスト。二人の少年が笑顔で手を洗っている。ニコニコ顔の少年の目が薄く開いているように見えるのは、俺の錯覚だろうか。
外から帰って来た時は、必ず手洗い・うがいをしましょう!
「炎樽!」
「………」
ポスターの中の少年の目がカッと見開かれ、俺と視線がぶつかった。
……ドアの前にかけられたプレートの文字が小刻みに揺れ出し、段々とアルファベットが変化してゆく。
──Welcome to My Hell.
「っ……!」
低い声が脳内で響き、瞬間、視界が真っ赤になった。
炎樽、……! ほた、る……!
天和の声が遠くに聞こえる。まるで水の中にいるように息苦しくて、俺はとにかく空気を求め、目の前に現れた赤い扉を勢い良く開け放った。
「あっ、……!」
扉の中へと飛び込んだ瞬間、嘘のように息苦しさが俺の中から消え去った。視界を覆っていた赤いモヤも晴れ、目の前にはこれまでに何度か訪れたことのある保健室の見慣れた風景が広がっている。
「さあ、一列に並んで。これより身体測定を始めます」
「砂原先生……」
明るい茶色の髪と優しそうな笑顔。スーツの上から白衣を着た、美しく若い、保健の先生──。
「あ、あれ……。身体測定? どういうことだ……?」
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