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第4話 ナイトメア・トラップ・5

 身長計と体重計があって、名前は知らないけれど背骨が曲がっていないかを測定する板があって、……俺の手には、「春の身体測定」と書かれた二つ折りの紙が握られている。いつの間に着替えたのか学ランではなく体育着姿だ。 「あれ、俺さっきまで英語の授業で旧校舎に向かってて……」 「炎樽、なに寝ぼけてんだよ。絶対去年より身長デカくなってる、ってついさっき宣言してたじゃねえか」  俺の背後に並んでいた幸之助が笑った。 「まあ、幾ら背が伸びても俺よりチビなのは変わらないけどな!」 「ムカつく。いつか絶対追い抜くし」  そうだ。今日は身体測定があるんだった。どうして忘れていたんだろう。身長も体重も絶対に増えてるはずだって、凄く楽しみにしていた……気が、するのに……。 「では次、比良坂炎樽くん」 「はい」  砂原先生。これは今朝赴任の挨拶をしていた先生だ。美人で若くて人気者の、新しい保健の先生。俺の診断表を受け取って、ニコニコと笑っている。 「それではまず、身長を測ります。そこの台に立って、足をマークの所に合わせてください」  裸足の裏に感じる、ひやりとした金属の感触。先生の手が測定器のバーを下げ、俺の頭頂部に当てた。 「うーん、一六七センチ」 「や、やった! 去年より二センチ伸びてる」 「良かったね。今の時期でもまだまだ伸びるから、規則正しい生活をしないといけないよ」  それから体重を測り、握力を測り、視力と聴力を見てもらってから、先生がメジャーを取り出して俺に言った。 「胸囲を測るから、上を脱いでね」 「は、はい」  体育着の上を脱いで上半身を晒すと、砂原先生が俺の胸周りにメジャーを巻き付けながら「ぺたんこで可愛いね」と言った。恥ずかしさに笑って誤魔化し、そうして──周囲から他の生徒達がいなくなっていることに気付く。 「あ、あれ。先生、みんなは……」 「始めから君一人だったよ? 確か君は身体測定の日に病欠したから、こうして今日改めて一人で測定しに来てもらったんだ」  ──そうだったっけ。いや、そうだった気もする。 「名前は、比良坂炎樽くん。三月三日生まれのO型。間違いないよね? ……それじゃあ次は心音を確かめようか」 「は、はい……」  耳に聴診器を付けた先生が、俺の胸に丸いチェストピースを当てる。冷たくて一瞬だけ体が強張ってしまったが、先生の「ゆっくり息を吸って、吐いて」という優しい声を聞いて少しだけ緊張が解れた気がした。  だけど── 「わっ、先生っ……」 「どうしたのかな?」 「な、何で直接胸に耳を付けるんですか?」  聴診器を外した砂原先生が、俺の胸にぴったりと耳をあてて言った。 「こうやって直接心音を聞くと、医学では分からないことも伝わってきたりするんだよ。……炎樽くん、凄くドキドキしてる。正常な反応だ」 「ほ、本当ですか……?」 「ああ。次は短パンを脱いで、大事な所を測るよ」

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