「見えるか？　炎樽」 　翌朝── 　やっぱり、視力が落ちている気がする。昨日よりもまた少しマカロの顔がぼやけていて、数メートル離れただけでマカロの姿がただのピンクのわさわさになってしまう。 「えええ、何でだ？　昨日は少ししかゲームやってないのに、何でこんな急に目が悪くなってんだろ？」 「……炎樽のやってるゲームって、どういうやつ？」 　俺はスマホを取り出し、睨むように目を細めながらアプリを開いた。 　シャックス・イン・ダークネス。別にこれといって話題のゲームではなく、ただの横スクロールアクションゲームだ。主人公が様々なステージをクリアして行き悪魔と戦うストーリーで、画面も美麗なＣＧでなくレトロな２Ｄグラフィックとなっている。 「シャックスって……」 「それがラスボスの名前なんだけど、……別に何のゲームやってるかは関係ないだろ？」 　画面を見ていたマカロが突然俺の目の前で飛び上がり「ぎょえ！」と奇声をあげた。 「こ、これってシャックスのゲームじゃん。こんなのやったらダメっていうか……どこでダウンロードしてきたんだよ、炎樽っ！」 「え？　分かんないけど、何かのサイトを経由して落としてきたような気がする。マカ、ゲーム詳しいの？」 「シャックスは視力とか聴力とか、人間の五感を奪う悪魔なんだぞ！」 「へ？」 「ほ、炎樽が呪われたぁ！」 　意味が分からず、取り敢えずピンクの塊を手で掴む。これはマカロの髪の毛だ。 「どういうことだよっ？　の、呪われたって？」 　マカロ曰く── 　夢魔を含め、悪魔というものは思っている以上にこちらの世界に多く存在しているらしい。悪魔はその狡猾さで上手く人間の中に溶け込み、何食わぬ顔をして活動しているのだとか。 　表向きはただのサラリーマンだったり、店員だったり運転手だったり、果ては警察だったり議員だったりアイドルタレントだったりで、一見ただの人間と変わらないのだという。 「こうやって巧妙に紛れ込んで、本当の目的を水面下で実行してるんだ」 「……それじゃあ俺の目が悪くなったのは、ゲームプログラマーの悪魔の仕業って訳か」 「一口にそうは言えないけど。もしかしたらアプリ会社の社長かもしれないし、一般社員かもしれないし……。とにかくこのゲームを通じて少しずつ人間の視力を奪ってるんだと思うぞ」 「何のために」 「それは知らないけど……」 　とにかく人間と同じように悪魔にとっても年々便利な時代になっているとかで、文明の発達と共に悪魔たちは実に簡単に社会に紛れ込んでいるのだとマカロが言った。 　俄かには信じられない話だけど、俺としてはここにマカロが存在している時点で信じざるを得ない。 「でも呪いなら、解く方法があるんだろ」 「簡単に言うなぁ。俺達夢魔よりもっと頭がいい連中なんだぞ」