59 / 122

第5話 エロス&インテリジェンス・3

 偶然このゲームを見つけてしまった俺は、まんまと悪魔の罠にハマったということだ。道理で攻略サイトが存在しないと思った。今の時代どんなに無名で不人気なゲームでもそれを話題にしている人が一定数はいるものなのに、このゲーム「シャックス・イン・ダークネス」はどの掲示板を見ても何一つ情報が出てこないのだ。  もしかしたら波長の合ってしまった人間しか出会えないゲームなのかもしれない。 「超レアゲームじゃん」 「炎樽、呑気すぎ!」 「ご、ごめん。そうだよな、こんなの人として許せないし……」 「取り敢えず俺はサバラと呪い解除の方法を探すから、炎樽はサバラが昨日言ってた夢魔のグッズを受け取った方がいいぞ」 「学校まで行けるかなぁ……視界ぼけぼけなんだけど」 「俺がナビする!」  視界はすこぶるぼやけていたけれど、案外毎日通っている学校への道のりを体は覚えているものだ。頭に乗ったマカロのナビのお陰もあって、ホームルーム前に何とか保健室へ辿り着くことができた。 「サバラ!」 「お、炎樽くんおはよう。昨日注文した物が届いてるよ、どうぞ」  サバラっぽい人の形をしたモヤモヤが、俺の方へと近付いてくる。顔に手が触れる感覚があって、突然のことに俺は強く目を閉じた。 「目を開けてごらん」 「ん、……」  眼鏡がかけられたというのは何となく分かる。だけどたった二日でここまで視力が落ちてしまった俺に、今更眼鏡をかけたところで── 「あっ……」  いや、これもまた夢魔の謎アイテムなのだ。悪魔のゲームに対抗する夢魔の眼鏡。目を開けたその瞬間、俺の視界にはっきりとした色と物質が蘇った。 「す、すごい! 元の視力よりずっとくっきり見える!」 「なかなか似合ってるよ、炎樽くん。鏡で見てごらん」  言われて壁の鏡を覗くと、そこには赤い縁の洒落た眼鏡をかけている俺がいた。 「炎樽、カッコいい! 頭良くなったみたいだぞ」 「へへ……何かちょっと慣れなくて恥ずかしいけど、とにかく良かった。サバラ先生、ありがとう!」 「こういう時だけ『先生』を付ける君は分かりやすくて可愛いね」  俺は意気揚々と保健室を出て、自分の教室へ向かった。マカロはサバラと一緒に呪いの解き方を調べてくれるとのことで、昼休みまでしばしのお別れとなる。仮にだけど俺の視力も戻ったし、マカロの居場所も出来たし、なかなか最高な日だ。 「おっ、炎樽。眼鏡じゃん、似合わねえ!」  教室に入るなり早速、幸之助が俺をからかってきた。 「急にどうした? 視力良い方だっただろ。伊達眼鏡か?」 「それがさ、最近ゲームやってばかりだったからか、ちょっと視力が落ちてきて。この際だから試しに眼鏡作ってもらったんだ」 「へえ。でも雰囲気ガラッと変わるな。俺にもちょっとかけさせろよ」 「だ、駄目! 幸之助には似合わないよ、絶対!」  酷でぇな、と幸之助がむくれた。貸してやりたいけど、曲がりなりにも夢魔の道具なのだ。俺以外の人間が試したらどんな効果や副作用が出るか分からないのに、軽率に渡す訳にはいかない。 「まぁいいけどさ。でも変装用としても使えそうだな。それかけてれば三年の奴らも炎樽のこと気付かないんじゃねえの?」 「うーん。あいつらは視覚だけじゃなく、嗅覚で追ってくるから……」 「嗅覚?」 「いやいや、こっちの話」

ともだちにシェアしよう!