全裸の天和と、巨大なドット絵の悪魔。二次元と三次元の闘い。その光景はちぐはぐで違和感しかないのに、負けられないという意味で妙な緊張感が走っている。 　シャックスは決められたパターンの攻撃しかしないが、空中に現れたブロックを利用して奴の頭上を目指し、額に付いたコアのようなものを攻撃しないとダメージが入らないらしい。 「でけえな、クソ！」 　天和は二段ジャンプを駆使しながらブロックを上がって行くが、シャックスのレーザーや衝撃波も同時に避けなくてはならないため、なかなかダメージを与えることができない。俺は汗の浮かぶ両手を祈るように組み合わせ、何かアドバイスできることはないかとあちこちに視線を滑らせた。 　こういう時に見るべきは、ボスの攻撃パターンだ。衝撃波が二回放たれた後でデカいレーザーがくる。その後は巨体を揺らして大きくジャンプし、空中のブロックを破壊しながら地面に着地する──。 「た、天和！　まだブロックに乗ったら駄目だ！　奴がジャンプした時に下をくぐって、反対側に回って！」 「おう！」 「そこから壊れてないブロック使って上って行って、奴がこっちを向いた瞬間に攻撃！」 　すぐに俺の言葉を理解してくれた天和が、足場のブロックを破壊される寸前に地面へと飛び降りた。 「溜めたらこっちも波動拳みたいなやつ出せるから、奴がこっち向くまでブロックの上で溜めた方がいいかも！」 　分かった、と天和がブロックをジャンプで上って行く。何故だろう、その姿は全裸でもカッコ良かった。 「喰らえ！」 　天和の手から放たれた炎の気弾がシャックスの顔面にヒットした。コアの光が弱まり、シャックスの体がビリビリと痙攣する。 「やった！」 「このまま撃てばいいのか、炎樽！」 「いや、今は多分当たり判定がないから、奴がまた動き出してからだ！　その間に奴の攻撃を避けられるように足場の確認をしろ！」 　本当にゲームプレイのアドバイスをしているみたいだ。序盤のボスは三発ヒットで倒せていたから、それと同じならラスボスも三発でコアが壊れるはず。 「よし、二発目！」 　順調だ。倒し方さえ分かれば喧嘩無敗の天和の敵じゃない。このまま行けばイレギュラーなことさえ起らない限り、思ったよりも早く終わりそうだ。 　──が。 「クッソ、……目が霞んできやがった……」 「た、天和っ？」 　余裕がなくてすっかり忘れていた。ゲームをプレイすればするほど、視力が奪われてしまうということを。 　天和の眉間に皺が寄っているのは単なる気合ではなく、見えづらくなった視界を懸命に見ようとしているのだ。 「ど、どうしよう？　このままじゃ……」 「全力で突っ込むしかねえ！　こんな奴に絶対負けねえ！」 　玉砕覚悟の天和。駄目だ、それだけは駄目だ。ゲームのボス戦で絶対にやったらいけないやつだ。 「天和──っ！」 　気付けば俺は天和の方へ駆け出していた。