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第5話 エロス&インテリジェンス・15
「ほ、炎樽っ? 来るんじゃねえ!」
去年の俺の一〇〇メートル走の最高記録は十四秒くらいだったけれど、今は違う。十秒切ってるのではと思うほど速く走れる。まるで風になったよう。体重がなくなったみたいだ。
たった今思い出した。このゲームはマルチプレイが可能で、二人協力での攻略ができるんだ──。
「天和、これを!」
人生初の二段ジャンプとブロックの側面蹴りを繰り出しながら天和の元へ辿り着いた俺は、かけていた眼鏡を外して天和に手渡した。
「夢魔印の眼鏡だ。かければ視力低下が無効になる」
「だ、だけどそれだとお前が……!」
「いいから早くっ!」
途端に視界がぼやけ始め、ただでさえ見づらいドット絵のシャックスがますます歪んで見える。
だけど、これでいい。天和がやられる所を見るより、俺がやられた方がいい。
「──わっ!」
思ったその時、体が宙に浮く感覚があって俺はぼやけた天和の顔を見上げた。吹く風が頬に当たる。至近距離で天和の息使いが聞こえる。俺は天和に横抱きにされ、ブロックからブロックを飛んでいた。
「お、下ろしていいって! 天和! 俺は大丈夫だから!」
「黙ってろ」
シャックスが大きく跳躍するのが見えた。耳をつんざくほどの轟音。今さっき立っていた足場が全て破壊され、衝撃に地面が揺れる。
新たなブロックを駆けあがり頂上へ立った天和が、俺の耳元で叫んだ。
「行くぞ!」
「うんっ……!」
組んだ手と手に力が溜まっていく感覚。最後の一撃。これは、天和と俺の合体技。
「行けえぇ──っ!」
光のスクリーンが目の前を覆ったかのように、ぼやけていてもその強烈な眩しさを感じ取ることができる。ごうごうと響く衝撃が俺と天和の体を包み込み、向こう側のブロックもグラフィックの地面も角ばった雲も全て、放たれた俺達の光と炎の衝撃波で勢いよく吹き飛んで行く。
シャックスのコアに直撃した最後の一発。ひび割れたコアが粉々に弾け飛んだ瞬間、悪魔の断末魔が青空に響き渡った。
「あ……」
俺達の足場になっていたブロックもいつの間にか吹き飛んでいたらしい。それでも落下の速度は緩く、天和が俺を抱きかかえたままふわふわと滑空し、数秒の後に地面へ着地した。
「炎樽」
「天和……」
間近に天和の顔が見える。赤縁の眼鏡をかけた、普段より少し知的に見える天和が俺を見ている。
屋上も元通り、まるで何事もなかったかのように辺りは静かだ。遠くに聞こえるのは校庭で騒いでいる生徒達の声か。青空に浮かぶ雲も綿あめのように丸い。
「戻った……。天和。全クリしたんだ! 全部見える!」
「はあ。すげえ疲れた……」
俺達は屋上の地面で大の字に寝転がり、お互いに深呼吸を繰り返した。
「そ、そうだ。マカ……大丈夫か、マカ!」
フェンスの近くで寝ていたマカロがのっそりと起き上がり、大きなあくびをして目を擦る。
「終わった? クリアできたの、ほたる」
「ああ、出来たよ! 天和が協力してくれた! マカもマジでありがとう!」
その小さな体を思い切り抱きしめると、マカロが苦しそうな声をあげた。
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