72 / 122

第5話 エロス&インテリジェンス・16

「取り敢えず終わったんだな。腹減っただろ炎樽。飯買ってきてやる」 「ありがとう、天和。……また助けてもらって……」  気にするな、の笑みを残して天和が屋上を出て行った。幾度も目にしてきたその後ろ姿はやはり男らしく大きくて、天和がいなかったらとっくに学園生活内でバッドエンドを迎えていただろうなと思う。 「ほたるの呪いが解けて良かった。おれも頑張った甲斐があったぞ!」 「でも、これから攻略サイト作ろうとか思ってたんだけど……ラスボスがあんな感じで出てくるんじゃまとめようがないよなぁ……」  そもそもあのラスボスバトルが現実だったのかどうかも分からない。あれだけの巨大な悪魔が暴れたのに、他の生徒達や近隣住民には全く気付かれていなかったみたいだし。  やっぱり現実がゲーム化したんじゃなくて、俺達がゲームの中に入っていたという方が正しいのだろう。 「おれ寝てたから分からないけど、画面からシャックス出てきたか?」 「ああ、凄いでっかいのが出てきた。毎回あんなのと戦うようにできてるってことなのか?」  ううん、とマカロが笑って首を振る。 「ラスボスに辿り着いたのって、多分おれ達が初めてなんだと思う。画面見せて」  消さずにそのまま置いておいたゲーム画面をマカロと一緒に覗き込むと、そこには真っ暗な中にウィンドウだけが表示されていた。中の文字はこうだ。 『シャックスはたおされた! 呪いはとかれ、全ての人間に 平和がもどった!』。 「これで大丈夫だと思う。誰か一人でも全クリすれば全プレイヤーの視力が戻るシステムなんだよ」 「ていうことは、一件落着ってこと?」 「ああ! ゲームそのものの呪いが解かれたから、もう被害に遭うひともいないと思う!」  良かった、と心の底から溜息が出た。ゲームでこんなに疲れたのは初めてだ。  それにしても俺達がクリアしなかったら、俺があのゲームと出会っていなかったらと考えると恐ろしくなる。こうしている今も別の悪魔から気付かれないうちに「何か」を奪われているのかもしれないと思うと…… 「悪魔も人間の世界でビジネスしてるのかな。マカロも夢魔印の道具って金出して買ってるんだろ?」 「うん。今はタップ一つでラクラク注文できるから便利になったぞ」 「こっちの世界とほぼ同じ文明だな。そういえばサバラがくれたあの眼鏡も、何かスマホで買ってたなぁ……」  力無く笑って、はたと気付く。 「天和に眼鏡かけさせたままだ……」  呟いた瞬間、屋上のドアが音を立てて開け放たれた。驚いて顔を向けた先、入り口ではパンの入ったビニール袋を手に下げた天和が、肩で息をしながら俺達を睨んでいる。 「た、天和……おかえり」 「………」 「あ、あの。ちょっと聞くけど」 「……炎樽……」  荒い呼吸。半笑いの口元。そして──赤縁眼鏡の奥でぎらつく目。  俺は咄嗟に両手で自分の体を隠し、訊いた。 「もしかして、テンプルのとこのボタン、押した……?」 「炎樽ウウゥアァアァ──ッ!」 「や、やっぱり……!」  ある意味では悪魔よりも恐ろしいこの鬼とのバトルは、一体いつまで続くのか。  捕まったら最後。俺は全力で屋上内を駆け回りながら、この鬼から逃げる力を与えてくれと見えない悪魔に祈り続けた。

ともだちにシェアしよう!