98 / 122
第7話 体育祭バーニング!・14
と、その時。
「ま、間に合ったかっ──?」
「うわっ、うわあぁっ! 誰、……サバラッ?」
突然俺の部屋の窓が豪快に開かれたと思ったら、そこには呼吸を荒くさせたサバラがいた。月夜を背景に黒い翼をバッサバッサとはためかせ、相当飛ばしてきたのか尋常でない汗をかいている。小脇には家を出て行った時と同じ格好のマカロが、荷物のように抱えられていた。
「な、何だよ急に! 不法侵入!」
「ほ、炎樽ー、ごめんー」
手足をばたつかせて情けない声を出すマカロ。サバラは窓のサッシに片足を乗せたまま、必死に鼻を鳴らして部屋の匂いを嗅いでいる。
「お、遅かったか……。クソッ、取り損ねた……!」
「………」
突然現れた理由を察して、俺は思わず溜息をついた。恐らくはマカロから俺達のことを聞いて、彼らの言う「良質な」種を取るため六月の夜空をぶっ飛ばしてきたのだ。
「残念だったな」
天和が俺に覆い被さったまま、サバラに向けて意地悪く笑った。
「クソ、……マカロ! お前、こんな二度とないチャンスをスルーするとは何を考えてるんだ! この落ちこぼれ! マヌケ! ドピンク!」
「だ、だって炎樽と天和は俺の大事な友達だし! 初めてのセックスくらい二人きりでしてもらいてえじゃん!」
「その『初めて』はもう二度と来ないんだぞ! 射精のタイミングでサッと侵入するとか、色々方法はあったろうが!」
「ちょ、ちょっとお前ら、そんな大声で話すなって! せめて部屋の中でやれ!」
慌てて二人を止めに入ろうとしたが、何せ布団から出れば素っ裸の状態だ。床に放られた例のクマパンツやシャツを拾おうとして手を伸ばすも、絶妙な距離のせいで指先さえ届かない。
その間にも、マカロとサバラはヒートアップして行く。
「別に初めての種も二回目の種も、質は同じだろ! セックスで出す精液ならいいんだしさ!」
「モノは同じでも商品としての付加価値が付くだろうが、馬鹿! 少しはそのピンク脳で考えろ!」
「終わっちゃったのは仕方ねえじゃん!」
「仕方ねえで済む問題か!」
「天和!」
「炎樽くん!」
「こうなったらもう一回、『初夜』を再現し──がああぁっ!」
最終的に二人の声が重なった……が、言い終わらないうちにベッドを降りた天和が二人の顔面を押さえ込み、強烈なアイアンクローをかました。
「ギャンギャンうるせえんだよ。てめぇらのケツ掘るぞ、コラ」
「い、いたいっ! いたいいたい! 天和、やめて!」
「は、放せっ、このクソッタレ腕力馬鹿ァッ!」
月夜に悲鳴がこだまする。鬼が悪魔を力ずくでねじ伏せる。
「た、天和、やめろって!」
「炎樽、助けてぇッ!」
こうして俺の最初で最後の経験となる「初夜」は、夢魔達の悲鳴と共に幕を閉じたのだった。
ともだちにシェアしよう!